エイハブさんのご質問
 
「このところの消費税の議論では、逆累進性が大きく問題視されています。
ただ、日米英で低所得から高所得まである程度体験してきた身としては、日本はそもそも所得税の累進度がとてもスティープで、消費税率の低さも考慮すると実質的な累進度はかなり高いのではないのか実感です。この点に関し、各国を比較した実証的で分かり易い研究はあるのでしょうか?」
 
経団連も消費税率引き上げと所得税の累進税率の引き上げ、法人税の引き下げをセットで提案している。
消費税が所得に対して逆累進的であることは誰も承知している。消費税率を上げるだけでは格差を拡大してしまう。それではさすがに「格差拡大反対勢力」の批判に耐えられない。
 
私も消費税の逆進性は所得税率の引き上げで相殺すればよいと主張した。
では、日本の所得税の累進税率は他国比較どれほどなのか?
これは議論を進める上で確認しなくてはならない事実だ。エイハブさん、いいとこ突いている。
 
ところがこの国際比較は、それほど簡単な問題ではない。
単純に所得階層別の税率だけではなく、各種の所得控除なども反映した実効税率で比較する必要があるからだ。
検索したところ以下の大阪経大の藤本清一さんという方の研究論文が見つかった。
37ページ 図1
 
税制調査会資料をベースにしている。これによると日本は全体的に他先進国比で税率はやや低いが、特に年間所得500万前後から1000万円台前半のミドルクラス(夫婦&子供二人のモデル)の税率が低めと見える。
 
ちなみに米国では1980年代前半にレーガン大統領の大減税で累進税率のフラット化が進んだ。
これは世界的な傾向となり、西欧や日本でも少し遅れて累進税率のフラット化(最高税率の引き下げ)が行なわれてた。
 
また以下の三菱東京UFJ銀行調査室(私のもといた古巣だが)の最近の調査レポートも本件問題に絡んで参考になるだろう。
主要先進国の所得税の最高税率(含む住民税)は40%~50%で概ね収斂している。
ただし、実態は表面的な税率だけでは分からない。
 
例えば、日本を含め主要国は株式配当など投資資産所得に軽減税率を適用している。
例えば日本は株式配当は20%だったが、今は時限処置で10%の軽減税率になっているはずだ。
所得水準の高い家計ほど配当などの所得が大きいと考えられるから、こうした点も含めた実態調査に基づかないと本当のことは分からない。
それに以前も書いたが、自営業の家計の課税所得の補足が過少評価されている問題は昔から指摘されている通りだ。