さてじわじわと進む円高、FXでは外貨を買い下がるスタンスで個人投資家の円売り持ち高が積み上がっている。「このまま外貨買い・円売りでいいの?また、どか~んと円高に行かない?」
さあ、どうだかな。短期の相場は予想不能だからねえ、ぴくぴくと神経質に考えたって無駄、無駄。
今日(8月22日)の日経新聞、Sunday Nikkeiの欄で「円高、外貨投資戦略を練る」(田村正之)で私も登場している。私の外為、投資テーマの著書を読まれた方には、周知の内容だが、ご紹介しておこう。(なお、紹介されている国際通貨研究所のPPPグラフは、もともと私が作成して自分のホームページに掲載していたものですが、私が同研究所の調査部長だった時に、研究所のホームページで3種類に増やして、更新継続するようにしたものです。)
参考図書
記事からの引用
「物価変動を考慮した為替の適正レートを購買力平価という。自分で計算するのは大変だが、ドル・円とユーロ・円の長期的な購買力平価(PPPと呼ぶ)のグラフ(CとD)は、国際通貨研究所のサイトの「調査研究レポート」のコーナーで簡単に見られる。
かつてメガバンクの為替部門などに在籍し、現在は龍谷大学教授を務める竹中正治さんは「実際の相場がいつ購買力平価に近づくかは予測できないので短期的な予想に役立たず、ほとんど市場でも話題にならない。しかし個人が長期投資を考える際には、重要な参考材料になる」という。
例えばグラフCだと、ドル・円の購買力平価は日本のデフレを背景に長期的に円高方向に進んでいる。実際のドル・円レートは、国際間の価格調整が反映しやすい「輸出物価ベース」のPPPを「円高の上限」に、企業同士の取引価格で示す「企業物価ベース」のPPPを「円安の下限」として推移している。
05~06年のように企業物価ベースのPPP前後の円安時に投資すれば、その後円高になって損が出てしまうことが多かった。しかし今は、「購買力平価でみると対ドルでは極端な円高とまでは言えないものの、投資に乗り出してもいい時期」(竹中さん)。一方、ユーロについて前出の佐々木さんは「過去に割高過ぎたのが適正レートに近づきつつある段階。さらに下落余地もある」と話している。
もちろん米景気に安心感が見えれば「いったん1ドル=90円台くらいまでは簡単に戻りそう」(竹中さん)との声も多い。しかし日本のデフレが続くなら、長期的には再び円高に動く可能性もある。このため多くの専門家は「一度に外貨投資せず、時期を分散して少しずつ買い、リスクを抑えるべきだ」としている。
自らも投資経験が長い竹中さんは「今は国内外とも債券より株式が割安」とみる。「新興国株や先進国株に幅広く投資できる低コストのETF(上場投資信託)などで購入時期を分散しながら投資しては(表A参照)」と話す。
通貨選択型投信などで最近人気のブラジルレアルはどうか。FPの深野さんは「確かに高成長は魅力だが、日本からの資金などですでに株も債券もかなり買われている。今から投資しても期待通りの利益を得られるか個人的には疑問」と話していた。」
購買力平価と実質相場
少し記事の内容を補足しておくと、為替相場には名目相場と実質相場の概念がある。名目相場は市場相場それ自体であり、実質相場は2国のインフレを調整した相場だ。 「市場相場を購買力平価に照らして見る」と言うことは、実は実質相場で見るということと同じこと。
というのは、実質相場とは名目相場が購買力平価からどの程度乖離しているかを指数化して表現したものだからだ。
購買力平価の形は基準時点(起点)の取り方で変わってくる
記事の中で「ドル・円レートは、国際間の価格調整が反映しやすい「輸出物価ベース」のPPPを「円高の上限」に、企業同士の取引価格で示す「企業物価ベース」のPPPを「円安の下限」として推移している」と表現されているが、これは企業物価を1973年、輸出物価を1983年を起点にして描かれたPPPと比べた結果の経験則に過ぎない。
別の時点を基準にPPPを描けばPPPグラフの形は変わり、市場相場のグラフとの位置関係も変わってくる。企業物価について1973年を選んだのは、それは固定相場制から変動相場制への移行年であり、またその年の経常収支が概ねゼロに近かったので、円高円安のバイアスが少ない年だと推測したからだ。
また輸出物価の起点が1973年ではなく、1983年であるのは現在公表されている輸出物価の統計データ系列が1983年からのものである結果に過ぎない。
チャート好きの方は、企業物価PPPを「ドル相場の抵抗線」、輸出物価PPPを「ドル相場の支持線」のようにイメージするかもしれないが、そうした論理的な根拠はない。(もっともチャート分析に論理的な根拠はないと私は考えている。)
ともあれ、このように基準時点を定めて、2国間の物価指数から導かれるPPPは「相対的購買力平価」と呼ばれる。限界としては、ある一定期間に生じた購買力の変化の計測を基にしているのであって、絶対的な水準比較ではないということだ。
絶対的購買力平価と相対的購買力平価
同じ日経新聞の3面に「円高とマックの我慢比べ」という記事で、マクドナルドのビッグマックをベースにした購買力平価の説明がなされている。このように2国間の品目を特定して算出したものを「絶対的購買力平価」という。しかし現実の世界では流通する剤とサービスは実に多種多様で、国が違えば当然異なる。
だから絶対的購買力平価の算出は無理なのだが、無理を承知で、消費者物価指数を構成する主要商品群などを対象に絶対的購買力平価を、たしか世銀が算出している。 しかし、私はあまり信用していない。だって、マックなら世界的に標準化された商品だから比較できるが、住居や食品に至るまで、例えば日本と中国の質は大きく異なるだろう。そうした無数の財やサービスの質もまで勘案した上で価格を比較するなんて、無理。
日経新聞記事の掲載表
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