ああ、今日は日本の金融史に残る寿dayかもしれない。
振興銀の破綻がペイオフで処理されたことを祝うのは、奇妙だろうか?
 
しかし1971年に預金保険制度ができ、限度内で預金を保護するルールが設けられたにもかかわらず、
今日までペイオフが実施されたことがなかったことの方が、私には奇妙に思える。
 
政府が預金金利を規制していた時代、1980年前半までならともかく、金利・金融の自由化を進めた1980年代後半、自由化と同時に「破綻銀行にはペイオフを実施する」「誤った経営をした銀行は潰す、預金は保険限度までしか保護しない」と政府・大蔵省ははっきりと宣言し、国民に向かってしっかりと宣伝しておくべきだったのだ。市場を自由化すれば、競争で淘汰が進むのは必然の理だ。
 
それをせずに、「銀行は潰さない神話」を許してしまった。その結果、1980年代の後半から90年代初頭にかけて、不良債権が増え始めて信用力の劣化した銀行、信組、信金でも、預金金利を他行より高く引き上げることで大口預金を吸収し続け、不良債権を膨らませながら存続を続けた。1年物定期預金金利を1%も高く設定し、預金を吸収し続けたあげく破綻した銀行、信組、信金が沢山あった。
そのことが90年代のバブルの損失をひとまわり大きくしたと思う。
 
90年代半ば、銀行業界全体の損失が膨れ上がった後となっては、もはやペイオフは発動できなくなった。潰せば預金引き出しの連鎖が起きて、金融危機を深刻化させるからだ。
 
信用力が落ちると資金調達コストが上昇し、やがて預金金利を上げても預金が逃げて行く、そういう市場を通じたメカニズムを働かせてこそ、金融機関の経営に規律が強制され、不良金融機関は早めに淘汰される効果が生まれる。
 
それでもバブルは起こるときは起こるだろうが、早めに不良金融機関が淘汰されれば、金融システム全体の傷も相対的に小さくて済む。ただし預金保護が全くないと、不必要に預金者が不安に駆られ、金融システムが不安定化する。市場を通じた規律と一定度の安心、それをバランスさせるメカニズムの核心が預金保険制度によるペイオフなんだ。
 
それを封印し続け、あるいは発動できないでいた状態だったことこそ、異常、奇妙と言うしかない。
そうした日本金融史の奇妙で異常な時代が今日終わったと思いたい。