ジャスティン・フォックス、東洋経済新報社2010年
 
まだアマゾンで誰もレビューを書いていないし(私が最初のレビュー)、売れ行きもそこそこに止まっているようだが、この本は優れ本だ。 6つあげたい。効率的市場仮説というファイナンス理論、現代投資理論のベースにある仮説が、いかにそれがあたかも現実の市場そのものであると考えるような強力なイデオロギーに成長し、そして崩壊したかを、ファイナンス理論の思想史として描いている。もっとも「崩壊」を認めていない流派も根強いが。

しかも著者は金融・投資分野を専門にしてはいるが、ジャーナリストだ。その豊富な学識に感嘆する。日本にはこの分野にこれだけの学識、知見を持ったジャーナリストはいない。しかもジャーナリストの書いたものだけあって、高度な学説論を分かりやすく、面白く描いている。
とは言うものの、本書を読みこなすには、例えばバートン・マルキールの「ウォール街のランダムウォーカー」ぐらいは下地として読了しておく必要があろう。だからそういう下地のない読者にはやはり難解だろう。

マルキール先生の「ランダムウォーカー」も昔の版では、効率的市場仮説を堂々と強調していたが、最近の版はその点がかなりトーンダウンしている。その結果、論理的な一貫性が損なわれ、継ぎ接ぎ的なアラが目につく。
そう感じた読者は、是非本書を読まれるといいだろう。すっきりする。

本書を読むと米国はやはり金融と投資の国だと改めて感じさせられる。その分野で莫大な研究、調査が積み重ねられて来た。飛躍的な進歩と大失敗が激しく興亡する世界が展開しているわけだ。