gonchanのご質問、「ユーロってやはり崩壊するんですか?」を考えてみよう。その可能性はゼロではないだろうが、とても低いと思う。しかし、信じられないようなことでも起こる時代だ。どういうシンリオがあり得るのか頭の体操として考えてみよう。
 
シナリオ1:ユーロの部分破綻、ギリシャなど一国ベースのユーロ離脱
例えばギリシャで政府債務の棒引き強行を主張する政権が誕生し、ギリシャがユーロを離脱し、ドラクマ(昔の通貨)を復活させる。ドラクマの相場はユーロに対して急落、暴落してスタートすることになる。そのままだとユーロ建て国債の元利支払いが不可能だから(ドラクマ相場の下落で自国通貨換算の対外債務残高が急膨張する)、ユーロ国債の元本7割カットという強制債務削減を一方的に宣言する。
 
 実例としては2001年に債務・金融危機に陥ったアルゼンチンが国債のデフォルトを起こした後に2005年にやった例がある。元本を実質7割ほど削減した新国債を発行し、それと旧国債とのスワップを保有投資家に「提案」した。旧国債の元利金償還は一切しないと宣言し、多少でも元本を取り戻したかったら、新国債に乗り換えなさいと脅した。そして記憶ではかなりの投資家がこれに応じざるをえなくなり、債務カットが成功してしまった。 アルゼンチンの円建て国債を買っていた日本の投資家も大損した。
 
 ただしそんなことをすれば、その国は国際金融市場から少なくとも10年ほどは事実上締め出されることになる。国債の債務カットを一方的に強行する国の株や債券を買う海外投資家はいないし、金を貸す海外の銀行もいなくなるからね。 それでもやるか?の問題。
 
アルゼンチンの例では、経済的には一時大きなGDPの減少が起こったが、為替相場が暴落した結果、輸出が拡大し、2005年-07年は自国通貨ベースではけっこう成長率が回復した。
 
シナリオ2、ユーロの崩壊、PIIGS諸国のユーロ離脱
 今の状態でPIIGSのうち一国でも、上記のような離脱をしたら、他のPIIGS諸国も同様の事態になるかもしれないと投資家は考えるので、他のPIIGS諸国の国債も価格が暴落し、市場での借り換え発行が困難になるだろう。その結果、連鎖的にPIIGS諸国のユーロ離脱が生じるというシナリオがあり得る。ユーロは独仏を中心にした地域共通通貨として存続するが、これは事実上のユーロ崩壊と呼べるだろう。
 離脱した諸国は自国通貨相場が暴落するので、ユーロ建て国債の強制カットに動かざるを得ない(返済不能だからね)。
 
シナリオ3、ユーロの分裂、第2ユーロの創設
 PIIGS諸国だけで第2ユーロ(「マイナーユーロ」)を形成する。これは確か、浜のり子さんが言っていたシナリオ。第2ユーロの相場は当然ユーロに対して急落する。しかし国債の強制カットという超非常手段を行使しなければ、大混乱は避けられるかもしれない。
 ただしその場合は、やはり第2ユーロ相場の下落で膨張した対外債務を返済する困難は解決できないまま残る。 しかも、「俺たちの国は2軍の通貨だ」ということになり、そんな屈辱的な決断が国内政治的に可能とは思えない。
 
シナリオ4、ユーロにとどまったままPIIGS諸国がデフォルト宣言
 PIIGS諸国がユーロにとどまったまま、ユーロ建て国債のデフォルトを宣言し、国債債務の強制カットを強行する。例えるならば、地方自治体が地方債を発行して、財政破綻し、中央政府はその債務を肩代わりすることなく、地方債を債務不履行→強制債務カットするようなもの。
 当然、PIIGS諸国は国際金融市場から締め出される。PIIGSの他の株や債券からの国外への資本逃避も生じるだろう。PIIGS諸国の国債を保有していた欧州の金融機関、投資機関も莫大な損失をかかえ、新たな金融危機になるだろう。
 
シナリオ5、財政を含めた政治主権を統合し、ユーロ連邦に移行する。
 PIIGS諸国の債務は、ドイツなどの対外債権国の財政資金で埋め合わせることになる。ドイツなどの納税者の大反対が起こるので、これも政治的には困難度はSA級。
 
 ふ~ん、こう考えると現実的に選択可能なオプションがないね。だから「当面」問題を先送りするようなことしかできていないわけだ。先送りで時間をかせいで、PIIGS諸国が財政赤字を縮小、財政再建できれば、それに越したことはないのだが、それが途方もなく困難視されている。どうなるんだろう?
やはり、わかりませんねえ。
 
 ユーロ圏の抱える経済問題のポイントについては、以下の論考p127-128「ユーロの挑戦と矛盾」をご参照ください。