中央公論掲載、海老原嗣生の「4大卒は中小企業を目指せばいい」を読んだ。
以下のサイトで読める。
 
論考の内容を要約すると、大就職難に苦しむ今の大学生の就職活動が問題になっているが、それは大卒の人材供給が過去30年間で大幅に増えた一方、就活をする学生の大半が知名度の高い大手企業ばかりに殺到する結果である。中小企業では大卒人材の需要は圧倒的に需要超過・供給不足に傾斜している。つまりは人材の需要と供給のミスマッチが原因である。
 
これは正しい。というか、学生の就職活動の支援に係っている方々には、ほとんど常識の範囲だ。私も講義やゼミで繰り返し、学生諸君に語っている。「大企業へのエントリーには挑戦しなさい。しかし採用される人数は少ない。中小企業にも良い企業が沢山ある。キャリア開発部の紹介や企業説明会でそういう先を見つけて、アプローチしなさい。」
 
ところが、学生諸君にこの常識がなかなか共有されない。あるいは「そんなこと言われても、やはり知名度のある大企業にいきたい・・・」という衝動に支配されている学生諸君が多いということだ。 
 
中堅中小企業の定義にもよるが、就業者の7割以上は中小企業に勤めている。一方、今日大卒者はその年の人口の半分を超えるわけだから、「中小企業に行きなさい」は必然的な事情である。
 
海老原氏はそうした学生諸君に次のような価値のあるデータを提供している。
中小企業はどこも働くに値しないと考えるのは、中小企業に失礼だということ。確かに平均値で見ると、売上高などの経営数字にしても、給与水準などの従業員待遇にしても、すべての数値で中小企業は大企業より劣っている。
 しかし、平均値ではなくて上位企業を見るとどうなるか。実は、営業利益率10%以上の企業比率は、従業員数1000人以上の大企業よりも、中小企業のほうが1・5倍も高い。20%以上だと、中小が大企業の3倍となる。つまり、中小企業のすべてが悪いわけではないのだ。
 将来性の面から見ても、仕事のやりがいという面から見ても、優良企業はたくさんある。中小企業の数は170万社にものぼるので、仮に一割が優良企業だったとしても、17万社。大変な数だ。」
 
それから教育論についても共感できる指摘をしているので、以下に引用しておこう。大学で何を学ぶべきかについて以下のように語っている。
 
もう一つは、物事を考える能力を学ぶことだたとえば、一つの命題が正しいのかどうかを判断するためにはどのような事例を集めればいいのか、どのような角度から検証すればいいのか、といったことを勉強する。 こうした「本当の意味で物を考える力」は社会に出ても使える。営業するにも、企画を考えるにも、必要なデータを集めてきて、それを読み取り、相手の理解度を予測した上でわかりやすく説明するといった力は必要である。・・・・中略・・・・・社会に出れば、科目ごとにテストがあるわけではない。自分の知識を垣根なくフル動員して、目の前の問題に立ち向かうことが求められる。こうした練習こそ大学でなされるべきだろう。」
その通りだ。120%同感だ。 でも氏が指摘する通り、学生諸君が本当に自分の頭で考える授業は難しい。上手にそれを指導できる教員は少ない。私は教師との巡り合わせが幸運だったのかもしれないが、小中高と考えさせる指導をする先生方に出会った。その点、大学の先生はむしろ素っ気ない方々だった。大学の先生方は「もう大学生なんだから、考えるか考えないかは君達次第だよ」と考えていたのだろう。
だから、私が学生諸君にどうすれば考えさせる指導になるかを思案するとき、繰り返し想起するのは小中高校の先生方の記憶である。