さて、GWの最後にもう一冊だけ書籍のレビューを書いておこうか。
「国家は破綻する(This Time Is Different)」(CMラインハート&KSロゴフ)
日本語タイトルは誤解を誘う。国家の債務破綻だけでなく、民間の銀行危機、デフォルト、ハイパーインフレを過去数百年遡って、データベースを整理、構築しながら検証した内容だからだ。
2007-08年の米国を震源地とする国際金融危機についても、1章あてられている。
政府や民間の債務危機、金融危機には、超長期に遡っても共通したパターンが見られることを抽出し、危機の繰り替えしに終りがないことを警告するメッセージとなっている。「もう過去の危機のパターンは克服された」と政府も世間も感じている時が一番危ない。そういう意味で「This Time is Different」というブームやバブルの時に毎度繰り返される「おめでたい」言説パターンへの批判である。
本書の厚さに抵抗感を感じる方もいるだろうが、なぜかフォントがかなり大きく(12フォント?)、内容以上にぶ厚くなっている。
同種のジャンルにはキンドルバーガー著の「熱狂、恐慌、崩壊-金融恐慌の歴史(Manias, Panics, and Crashes )」があるが、キンドルバーガーの著書がデータをベースにしながらも概ね歴史物語形式で叙述されているのに対して、本書は個別の危機物語よりもマクロデータを通じて浮かび上がってくる分析が主である。その分、ちょっと非エコノミスト系読者にはややとっつきにくい内容かもしれないが、難解ということはないだろう。
本書の中で私にとって印象的な分析結果をひとつあげると、過去200年遡って「より自由な資本移動と銀行危機の発生率の間には、驚くべき相関性が認められる」(p.240)である。 戦後に関していうと、1971年のブレトンウッズ体制の終焉と73年からの変動相場制への移行で、国際通貨システムのトリレンマのひとつの辺である「固定相場制レジーム」から他の辺である「変動相場制レジーム」に移行したことで、国境を越える資本移動が自由化されたのが現代である。グローバリゼーションもその結果である。
(トリレンマについて不詳の方は、以下私のサイトの2010年11月の論考(雑誌エコノミスト掲載)をご参照)
このレジームシフトが必然化した国際的な資本移動の自由が、銀行危機の発生率を高めているのであれば、やはり国際的な協調的対策が必要だろう。詳しくは述べないが、単純に資本移動規制を強めればそれで済むというものではないので、厄介な問題である。
政府の国内債務の膨張と破綻(デフォルト)の章では、やはり日本の将来を考える上で、財政の抜本的な改革が不可避であることを痛感させられる。ちなみに、高インフレはデフォルトの一種とみなすことができる。
果たして日本のコース転換は間に合うか?民主党政権にそれができないことだけは、よくわかった。
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