本書はアメリカの最も知的で良質なリベラル派の立場から書かれたアメリカ経済史&精神史だ。
経済データが比較的信頼できる19世紀まで遡って俯瞰すると、アメリカ経済が順調な成長を遂げた時代には寛容と開放性、良心的な社会改良の思潮が興隆し、反対に経済成長が長く停滞した時代には差別と排他、デモクラシーから遠ざかる思潮が強まったことを、経済、文学、政治の知識を総動員して描かれている。

ただしこのパターンの例外は1930年代の大恐慌、大不況の時代であり、4人に一人が失業したこの空前の危機の時代には、この国家的な困難、問題を解決するための社会改革が実行され、それはその後の時代にも制度として定着した。この点で当時の大統領ローズベルトが高く評価されている。

著者の今日的問題状況への含意は明瞭だ。
戦後最大の金融危機と不況を経た今日、経済成長への悲観や経済成長それ自体への懐疑が唱えられている。しかし、筆者はそうした主張にはくみしない。本書の英語版は金融危機前の2005年に出版されたものであるにもかかわらず、本書を読む者は、「経済成長と社会正義のための改革に今こそ立ち上がろう」と鼓舞するメッセージを感じずにはいられないだろう。

著者はFRBのエコノミストも勤めた金融論を中心にしたマクロ経済学者(ハーバード大学教授)であるが、文学から政治に至るまでのその見識の広さと深さは驚嘆に値する。 私でもあと50年ぐらい勉強すれば、こういう文章が書けるだろうか、ははは、寿命が続かない(^_^;)

重厚な内容であるが、訳文は非常によく練り上げられており、実に読みやすい。
アメリカ社会の総合的な理解のために欠かせない1冊としてあげたい。
 
竹中正治HP