さてisaroaさんの問題を考えてみよう。
「物価上昇率を加味した実質金利というのは、資金移動が自由化されている場合は、どこの国でも長期的には一定になるように動くはずという理解でよいのでしょうか?」
そうです。短期、中期では当然実質金利は異なりますが、資金移動が完全に自由な諸国の間では長期・趨勢的な実質金利は同じ水準に収斂すると原理的には考えられているし、私も日米で過去20年か30年でやってみましたが、とてもよく近似します。
「となると、長期間、キャリートレードが起こっており、多くの人が利益をそれで得ていたということ自体は、実は、経済理論的には、おかしく、実は、何らかのバブルが発生しているなど、経済状況がおかしかった可能性が高いということになるのでしょうか?」
キャリートレードはブームと破裂を繰り返してきたと理解しています。ブーム期にはPPPから高金利通貨高の方向に相場が乖離し、破裂局面でPPPに回帰し、あるいは反動でPPPより割安方向にオーバーシュートします。これは私の為替相場関連の著書で具体的に記述してきたことです。
ただしそれを「経済状態がおかしい」というかどうか?表現が主観的ですね。経済とは必然的にそういう振れを発生させるものだと考えれば、まあ自然なことだとも言えます。
「実質成長率は各国異なります。実質成長率が高い国の場合は、株式や土地資産といった資産は、高い成長率で成長すると期待されます。 こちらの差異は、どのように調整されるのでしょうか? 成長率が高い国への資金流入は、その資産の今後の実質ベースでの期待上昇率が、その他の国の同様の資産の実質ベースでの期待上昇率と等しくなるように調整されるということでよいのでしょうか?」
さて、この問題が難しそうだ。各国の実質成長率はひとり当たり実質GDPで見ると先進国では戦後2%程度に収斂する傾向が見られます。しかし、労働人口成長率は異なるから、実質GDP成長率は収斂するわけではない。その結果、「実質GDP成長率-実質金利(これを成長率・金利格差と呼ぼう)」の趨勢値にはバラツキが生じるでしょう。
成長率・金利格差が相対的にプラスで高い国の投資収益率は、低い国よりも高くなるか? ここで「投資収益率」とは株式や不動産などリスク性資産への投資と考えるべきですね。つまり無リスク金利(国債利回り)にリスクプレミアムがのったリターンです。
投資家のホームバイアス(投資の自国偏重)が全くない原理的な完全世界では、諸国間のリスク性資産への実質投資リターンも収斂すると思います。投資家(例えば日本の投資家)が完全に合理的でホームバイアスがないなら、自国よりも高い投資リターンを生む国(例えば米国)への投資を増やすはずだからね。
その結果、現時点の米国の資産価格は上昇し、ドル相場は上昇する。その見合いに将来にわたる資産のインカム・リターンは低下する、あるいは今後の資産価格の成長率は鈍化し、将来のドル相場も投資収益率が収斂する水準まで下落する。
ところが、実際過去20年で見ると、「米国のリスク性資産の実質投資リターン>日本のそれ」となっている。20年間というのはかなり長期だから、収益リターンが収斂することを妨げる事情が長期でも働いていると考えるべきでしょう。
その事情とは、やはり投資家のホームバイアスが大きいと思う。加えて投資家の国によるリスク選好の相違も作用しているかもしれない。米国のリスク性資産の実質投資リターンが日本よりも高くても、ホームバイアスが強くて、かつリスク選好の低い日本の投資家は米国に投資したがらない、ということですね。
以上のように考えると、各国の国債のように無リスク金融資産(実際は無リスクじゃないけど)ではホームバイアスが低く、高リスク資産になるほど(不確実性が高まるにほど)ホームバイアスは強く働くと考えるのが妥当かもしれない。 だから実質国債金利では現実にも収斂がみられるが、リスク性資産の投資リターンでは収斂が働かず、バラツキが大きく残る。
このことをデータで実証できれば、まだ他の誰かがやっていなければ、論文になりそうですね。
とりあえず、こういう考えで良いかな・・・・。
なかなかチャレンジングな問題提起でした。
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