今日(8月8日)付の日経ビジネスオンラインの記事「人民元の弾力化でマネーはどこへ?」(豊島逸夫)の記事が中国政府の対外金融投資の2007年以降の展開を特徴的に描いているので記録のために引用しておこう。ほぼ同様の事情は私も外から見て推測していたが、取材した内容である点で価値がある。
 
「膨張する外貨準備を、米国債だけでなく日本国債に分散運用している国家外貨管理局の担当者たちにも会ってきた。彼らは官僚というイメージからはほど遠い。年の頃は30代半ばであろうか。アルマーニのスーツをビシッと決め込み、さながらウォール街のアジア系投資銀行マンのいで立ちである。聞けば出身校はオックスフォード、ハーバードなどなど。この2 4000億ドルに達する世界一の外貨準備を運用する部門は、エリート中のエリート集団なのだ。専攻もMPT(近代ポートフォリオ理論)などが多い。
 実は彼らは、つい最近まで勤慎中の身であった。2007年、膨張する外貨準備の運用を米国債一辺倒からMPTに基づく分散投資へと転換し、最初に政府系ファンド経由で米国投資ファンドのブラックストーンに30億ドル投資した。ところが翌2008年に同株の時価総額は購入時価格の50%にまで目減り。その損失を取り戻そうと、次はモルガンスタンレーに50億ドルを入れてさらに目減りを拡大させてしまった。
激怒した党の長老は、アメリカナイズされた若者集団に蟄居処分を下した。その御沙汰がようやく解けた2009年、中国の外貨準備増加が急加速する中で、再び運用の多様化が図られた。新たに分散運用先に選ばれたのがなんとユーロ。その当時はドルの覇権に対抗できる唯一の通貨と見られていたわけで、当然の選択といえた。しかし結果は、ドル不安でユーロに駆け込んだところ、その駆け込み寺が火事になってしまったような結果に終わった。
 そこで消去法的に浮上してきたのが円だ。ドル、ユーロ、円の弱さ比べの中で「欧米経済よりマシ」という相対評価をされ、避難通貨として円が買われたことによる円高に乗ってきたわけだ。中国の分散運用の対象は、資源国通貨、そして金という無国籍通貨にも広がりつつある。」
 相手の国の危機の最中に、割安になった優良な株式を買うと言うのは簡単にみえて、実は結構難しい。ましてや自分の金でなくて組織(政府でも企業でも)の金となるとますます難しい。なにしろ組織の承認を得なくてはならないのだが、その組織的意思決定というものは官僚的であるが故に、リスクテイクにもっとも不適合な原理でできているからだ。 
S&Pによる米国債の格付け引き下げに対する中国(政府)の反応も記録しておこう。
「国営の新華社通信は6日の評論記事で『米国の最大の債権者として、中国はドル資産の安全を保証するよう米国に要求するあらゆる権利を持つ』と主張し、軍事費や社会保障費の削減を迫った。」
まあ、これに対して米国政府としては「投資は自己責任でお願いしますね」とでも言っておけばいいんじゃないかな。
ただし、中国の分散投資の対象に円が買われると言うのは、円高要因として今の状態では嬉しくない。しかしそれも、この調子なら数年後には円安で損を負担していただけることになろうか・・・。