さて皆さん、昨晩のNY市場、遅くまでご覧になっていた方も少なくないだろう。私は昨日の東京時間にS&P500のETFを少しばかり買い、夜12時前には寝た。
既に報道されている通り、FRBの2013年半ばまで現在のゼロ近傍のFF rateを維持するという「時間軸」のコミットが発表されたことで、株式市場は大きく反発した。
The Committee currently anticipates that economic conditions--including low rates of resource utilization and a subdued outlook for inflation over the medium run--are likely to warrant exceptionally low levels for the federal funds rate at least through mid-2013.
FRBのステートメント全文は以下のサイトで読める。
以前からバーナンキ議長は、6月までやったQE2の次に何か対策を必要とされる事態になっても、「オプションはある。ただし今それを発動する考えはない」と言ってきた。今回はそのオプションを発動したわけだ。
追加策を実行する場合、何を選択するか事前に考えた。もしかしらた、直接FRBがETFなどリスク性資産を買うのもありかな・・・と思った。なにしろ、バーナンキは2000年代前半の日本のデフレ局面で、二の足を踏む日銀に対して「ケチャップでもいいから買って、マネーの供給を増やせ」と言ったわけだから。
超低金利で短期債、中期債の利回りがゼロ近傍まで下がると、中央銀行が国債を買って、マネーを供給しても、金融緩和効果は急速に弱まる。というのは、金利がゼロ近傍の国債というのは金利がゼロのマネー(紙幣=政府債務)と実質的に変わらなくなるからだ。同じものを売買しても効果はない。
しかしマネーから性質が離れた「ケチャップ」 だったら、マネーの供給の効果が出るというわけだ。
しかし、実際にはケチャップを買うことも、株式を買うこともせずに、時間軸のコミットメントをした。
いや、likely to warrantと言っているから、これはコミットメントではなく、見通しを述べたと言うべきだな。
日銀も2000年代に時間軸のコミットメントとして「CPIが前年比で安定的にプラスになるまで」量的金融緩和を続けるということをやった(2006年に解除)。 しかし、今回のFRBの見通し提供は、ある意味でそれ以上に踏み込んでいる。
日銀のように「CPIが安定的にプラスになるまで」と言われても、それが来年までなのか、再来年までなのか、市場参加者には不確実だ。ところが今回FRBは後2年間(2013年半ばまで)は、他に条件をつけずに、ゼロ近傍の金利を続ける見込みが高いと述べた。
例えば「2013年半ば前にCPIが高進してインフレが問題になる局面になったらどうするの?」とはだれでも考えるが、その問題を押し殺して見通しを提供したわけだ。もちろん「仮にインフレが高進したら、2013年半ば以前でも超低金利政策は撤回される」可能性は残している。
金融機関や投資家はどう反応するか? とりあえずFRBの見通しにのるとすれば、ゼロに近い金利で資金を調達して、中期、長期の国債で運用していれば、目先2年間は利鞘が抜ける見通しが正当化される。だから5年物米国債金利は1%を割った。10年物も2%台前半まで下がった。
一方、将来のインフレ高進を予想する人も出てくる。 彼らは超低金利で資金調達して実物資産(株、REIT、不動産など)を買うだろう。
もっとも「これでもう大丈夫」とは言えないだろう。投資家のリスクテイク意欲をまた委縮させてしまうような政策的な失態がユーロ圏から出ないか、中国のバブル崩壊・景気失速が起こらないか、米国の先送りされた追加の歳出削減交渉が新たな火種にならないか、などリスク要因はいくつもあるからね。
ドル相場はどうなるか?目先1、2年の予想レンジは下方修正しなくてはならないだろう。私は昨年秋以来、今年(2011年)の予想レンジは75-95円と言ってきた。しかし今回の変化で、2012年末まで「70-90円」の予想にしようと思う。株は反発しても、ドルの大きな反発は2013年まで「オアズケ」ということだろう。
さて現下のゼロ金利下での金融政策を含め、資産バブルと金融政策、マネタリスト・アプローチとその実証的な反証など、過去20余年にわたる米日欧の金融政策議論を勉強されたい方には、今年6月に出た以下の本が最適だと思う。
著者は著名な日銀系のエコノミスト(今は京大教授)だが、政府紙幣による通貨増発論など異端の金融政策もきちんと論理的に吟味し、対デフレ効果を肯定している点など、偏りのない真摯な姿勢が素晴らしい(政府紙幣による通貨増発は、その副作用のリスク故に採用は勧められていないがね)。
竹中正治HP
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