さて、エコノミスト会合に参加するために米国、ワシントンDCに来ています。TPP交渉参加の是非をめぐって日本では大議論になっていますが、米国ではこれまで進めてきた各国とのFTA交渉の一環としてTPPは議論されており、日本のようにTPPだけがとりあげられて大論争になるということはありません。
もちろん米国にも保護主義的な主張は多いわけで、米韓FTAについてもデトロイトの自動車メーカーの組合は反対しているとかありますが、自由貿易の拡大によるマクロ的な利益を正面から否定して、個別の利益を守れというような政策議論にはなりません。
この点でやはり日本のTPP議論の状況は、ちょっと奇妙なんですよね。これまで日本政府はFTA、EPAの締結拡大を志向してやってきたわけですが、それが国論を二分する大議論を引き起こしたことはない。TPPも参加国が複数になる点を除けば、原理は2国間のFTA, EPAと同じはずなんですけどね。
この点でニッケイビジネスオンラインの以下の記事、ならびに「三諸」というネームで事情通の方が書いているコメントがとても参考になったので掲載しておきます。本文の論者は小寺彰・東京大学大学院総合文化研究科教授です。 反対派が目の敵にしているISD条項(Investor-state Dispute Settlement)についてもきちんとした説明がなされています。
以下は三諸氏のコメントの冒頭です。
「まず、TPPというのは本質的に「外国人・外国企業の受ける規制を内国人・内国企業の受ける規制にあわせる」ものであることを最低限指摘しなければならない。関税撤廃はここから来る。内国企業は関税を受けないからである。しかし、内国企業も受けている規制なら、外国企業も当然ながら受けることになる。
TPPを結んだらもろもろの規制がアメリカ式になるとか、アメリカ企業は日本でもアメリカの法律さえ守ればいいとかいう主張は、だから根拠不明である。
同じ理由で、たとえば国民皆保険制度や公的薬価制度が日本の意に反して現在の形から変わることもありえない。TPPは、特定の国の制度を別の国の制度の上や下に置くものではないからだ。そもそも、シンガポールには国民皆保険制度であるメディセイブがあり、ニュージーランドには公的薬価制度がある。どちらも、すでに発効し運用されているTPPの締結国である。廃止される様子は微塵もない。」
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