映画「ドラゴン・タトゥーの女」を見て原作を読みたくなり、原作「ミレニアム」シリーズ(全3巻)読了した。
読み応えのある小説だ。面白かった。
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これはスウェーデンのジャ-ナリスト、Sラーソンによる小説で、舞台もスウェーデンだ。日本人にとってはスウェーデンという国は、性的な放縦さと福祉国家(消費税率25%)のイメージであろう。小説では非合法移民を搾取、人身売買する犯罪組織、国家権力組織(公安組織の一部)の暴走、子供・女性に対する男性の暴力、性的な虐待など社会の闇の部分にスポットが当たる。
映画「ドラゴン・タトゥーの女」(←映画公式サイト)
今回ハリウッドで映画化されたのは原作の第1巻だ。おそらく今後第2、第3巻も映画化されるのだろう。実は今回の映画化に先立ってスウェーデン映画として映画化されており、DVDを借りて見たが、そちらは私には面白くなかった。 好みの違いもあろうが、やはり映画はアメリカ仕立てが面白い。
一見わりと地味な展開の物語なんだが、一番の魅力はリスベット・サランデルという20歳代のヒロインのキャラだ。それにミカエルという40歳代の男性ジャーナリストがサブの主人公となって展開する。
だから、映画化して面白いかどうかは、まさにこの難しいヒロイン役を女優が上手く演じることができるかどうあにかかっている。
この点、ハリウッド版の女優、ルーニー・マーラは原作のキャラを見事に演じている(アカデミー賞にノミネートされた)。ジェームズボンド役だったダニエル・クレイグもまずまず。
ヒロイン、リスベットのキャラの何が魅力か? 彼女は母、娘(リスベット)とも父親の暴力、虐待を受けて育ち、それがトラウマになっている。母を守るために父に反抗し、もう少しのところで彼を焼き殺す。そのため精神病棟に入れられて権力と結託した医師から理不尽な拘束を受け、限られた人にしか心を開かない。しかし実は精神不安定でもなく、飛び抜けた集中力と行動力があり、ハッキング能力を磨いて天才的なハッカーとなる。
ひどく極端なキャラ設定なんだが、実はこれが多くの人の共感を引き起こす要素になっている。というのは、誰しもトラウマとまでは言わないにしても、子供の時分、学校の教師や親、その他の大人が子供の自分に対してとった理不尽な態度に怒り心頭に達した経験はあるだろう。
しかし子供だから、上手に抗議も反抗もできず、悔しい想いが記憶の底に沈んでいる。その悔しさの記憶は、時間を巻き戻してあの時に戻れるなら、「こう言ってやりたい」、「こうやってやりたい」という一種の復讐の情念にもなっている。
リスベットのキャラは、そうした誰の心の底にもあるような「悔しさと復讐の情念」を極端な形で先鋭化したものなんだ。しかもリスベットのトラウマは、当時の権力機構(公安の一部)が父親の背後にあったおかげで、個人的なものにとどまらず、最終的には権力組織の一部との対決に発展する。
その過程で、「国益、安全保障」名の下に不正を働き、それがばれそうになると組織保身のために手段を選ばない隠蔽工作に走る連中の醜さが描かれ、リスベットと彼女を助けるジャーナリスト・マイケルの闘いは、権力の陰謀を暴く一大事件に発展するというのが、2巻と3巻の展開だ。
1巻ではまだリスベットは「謎っぽい女」という以上の説明がなされないので、彼女のキャラで物語にぐいぐい引き込まれるのは実は第2巻からだ。 第3巻はリスベットの復習編という位置づけになる。
似たモチーフの小説では「岩窟王、モンテクリスト伯」を思い出す。無実の罪を着せられて孤島の牢獄に入れられるが、脱獄し、ひょんなことから巨額の大金を手にいれた主人公が自分を陥れた金持ちや権力者に復讐を果たす物語だ。う~ん、設定は違うが、モチーフは実にそっくりだと思う。
ところで、原作者のSラーソンは2004年に原稿を書き終えた直後に心筋梗塞で死んでしまった。まさか権力の闇を暴き過ぎたので暗殺されたわけではないと思うが・・・。
竹中正治HP
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