2月から始めた週刊エコノミストでの「賢い資産運用」の連載が、為替相場編に入った。
次数が制約されるので、説明し切れない点がいろいろ残るのだが、金利と為替相場の変化について、ここで補足しておこう。
 
長期では日米間で10年物国債の利回りで計った金利格差とドル円相場の変化が良く一致することは著作のなかで繰り返し強調してきた。つまり、ドル金利が円金利より高い分だけ、ドル相場は円に対して下落する。これは金利平価原理が、少なくとも日米間では長期のタイムスパンで成り立っていることを示している。
 
一方、短期、中期では米国の景況感が良くなってドル金利が上昇する(金利格差が拡大する)期待が強まるとドル相場も上昇する効果が働く。 高金利通貨に投資すれば高いリターンが得られるという誤解は、この短期、中期の相場の動きから、「だから高金利通貨の相場は上昇する」という発想で生じるようだ。
 
これは2重の誤解である。ひとつは短期、中期の傾向と長期の傾向を混乱していること。もうひとつは、金利差が拡大するという予想(たとえばドル金利が上がるという予想)が織り込まれる過程においてのみ為替相場は変化する(ドル高になる)ということだ。
 
従って、いったん金利格差が広がって為替相場が変化した後からドルを買っても、その後は他の条件が変わらなければ、ドル相場は金利平価原理に従って金利差分だけ長期には下落するだけだ。
 
これは株式市場で株価が上がる情報が伝わる過程においてのみ、株価は上がるのであって、その情報が株価に反映されてしまってから買っても、投資リターンは上がらないのと同じだ。
 
さらに補足するとドル金利が上昇して金利格差が拡大する場合にも二通りあることを指摘しておこうか。
 
1、ドル相場やインフレ率に関する市場参加者の長期の予測に変化がない場合:
目先のドル金利の上昇(あるいはその期待)は現在のドル相場を上昇させる。将来のドル相場の市場の予測水準は変わらない。 単純化すると以下のようになる。
 
{現在のドル相場(P)-将来のドル相場の予想(F)} 
                 ← ドル相場の変化率(年率)=ドル金利-円金利
 
上記の場合はFは不変なので、ドル金利の上昇分だけPが上がることになる。
 
2、将来のドル相場の予想が、米国の期待インフレ率の上昇で、低下する場合:
この場合は期待インフレ率の上昇に見合ったドル金利の上昇とFの下落が起こる。つまり金利格差の拡大は、1の場合と違ってPの上昇ではなく、Fの下落で調整される。目先のドル相場は上昇しないということだ。
 
以上の理解が正しいとすると、名目金利格差の変動と直物ドル相場の変動の間には長期では相関関係が見られないことになる。金利格差の変化が将来期待不変の場合と将来期待が変化する場合で直物ドル相場の変化がまるで違ってくるからだ。実際、長期のデータでみると名目金利格差とドル相場の変化の相関関係は極めて不安定で、相関係数は正にも負にもなる。
 
もっとも現在のドル相場は誰もが目にできるが、「将来のドル相場の期待値」は市場参加者の予想の一種の平均値として存在しているはずだ、と言うことができるだけで、明示的に確認することが困難だ。そこに金利平価原理の作用を事前に(つまり将来のドル相場の期待値を変数にして)検証することの困難性がある。事後として私達は知るばかり、まあ、世の中万事そういうものだ。 
 
合点して頂けたでしょうか。
 
竹中正治HP
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