「ソウルダスト、<意識>という魅惑の幻想(Soul Dust)」ニコラス・ハンフリー
紀伊国屋書店、2012年4月(↑例によってアマゾンにレビュー書いています。よろしければ「参考になった」をクリックしてください)
著者はロンドン大学の名誉教授、元々は心理学が専攻だが、その知見は心理学から進化論、脳科学、哲学、宗教に及ぶ。なにしろ自己意識という超難題を解こうとするのだから、学際的なアプローチになる。著者の重層的な論理を数行で要約するのは困難だが、最も基本的な視点は進化論的なアプローチだろう。
自己意識というものは、我々がみな持っていると感じながら、直接他人の自己意識の存在を観察することができない(相手は心がない心理学的なゾンビで、人間らしく反応しているだけなのかもしれない)。 しかし、「我、感じる。ゆえに我、存在する」である。 自己意識も存在する以上は、自然環境の淘汰圧の中で生存上の有利性があったからこそ、進化して来た産物であるはずだとして読み解いていく。
しかし自己意識(この文脈では「現象的意識」と著者は呼んでいる)の特徴は、視力とか聴力、羽などのそれがなければできないことを可能にするような役割ではなく、「それがなければしようとは思わないことをするようにやる気をださせるもの」ではないかと言う(p94)。
もっと具体的に言うと、現象的意識には正真正銘の生物学的価値があるのであって、それは「(それがなかった場合よりも)付加された生存の喜びと、自分が生きている世界の新たな魅力と、自分自身の形而上学的な重要性という新規な感覚のおかげで、個体が自分の生存のために行う投資が、進化の歴史の中で劇的に増えた」ことにあると説く(p97)。
自己意識を持つ結果として人間は(自己意識を持つ以前よりももっと)死を恐れるようになったと理解できるならば、それは他のどんな動物の生物学的適応度よりも、人間の生物学的適応度の向上に貢献する」(p130)。
と同時に自己意識を形成するに至った人間は「生への強い執着」と「死の不可避性」という難問を背負うことにもなる。その難問へのひとつの解決法として魂の不滅性という宗教の中核的な信条が生み出されたと理解することで、宗教を求める人間の心理学的基礎も読み解いてしまう(12章「死を欺く」)。
自己意識の謎を取り扱う書籍は、これまで幾冊か読んだが、おそらくベストの一冊である。
自己意識というものは、我々がみな持っていると感じながら、直接他人の自己意識の存在を観察することができない(相手は心がない心理学的なゾンビで、人間らしく反応しているだけなのかもしれない)。 しかし、「我、感じる。ゆえに我、存在する」である。 自己意識も存在する以上は、自然環境の淘汰圧の中で生存上の有利性があったからこそ、進化して来た産物であるはずだとして読み解いていく。
しかし自己意識(この文脈では「現象的意識」と著者は呼んでいる)の特徴は、視力とか聴力、羽などのそれがなければできないことを可能にするような役割ではなく、「それがなければしようとは思わないことをするようにやる気をださせるもの」ではないかと言う(p94)。
もっと具体的に言うと、現象的意識には正真正銘の生物学的価値があるのであって、それは「(それがなかった場合よりも)付加された生存の喜びと、自分が生きている世界の新たな魅力と、自分自身の形而上学的な重要性という新規な感覚のおかげで、個体が自分の生存のために行う投資が、進化の歴史の中で劇的に増えた」ことにあると説く(p97)。
自己意識を持つ結果として人間は(自己意識を持つ以前よりももっと)死を恐れるようになったと理解できるならば、それは他のどんな動物の生物学的適応度よりも、人間の生物学的適応度の向上に貢献する」(p130)。
と同時に自己意識を形成するに至った人間は「生への強い執着」と「死の不可避性」という難問を背負うことにもなる。その難問へのひとつの解決法として魂の不滅性という宗教の中核的な信条が生み出されたと理解することで、宗教を求める人間の心理学的基礎も読み解いてしまう(12章「死を欺く」)。
自己意識の謎を取り扱う書籍は、これまで幾冊か読んだが、おそらくベストの一冊である。
竹中正治HP
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