週刊エコノミスト(7月17日号)掲載の岩井克人教授による「経済学者の思想と理論」「クヌート・ヴィクセル」に関する論評が面白かった。
 
ちょっと引用しよう。(・・・は省略した部分)
「だがヴィクセルはあまりにもまじめな新古典派経済学者になりすぎた。・・・物価水準と貨幣量とを関係づける貨幣数量説には何のミクロ的基礎もないことに不満を抱く。・・・ヴィクセルはこう推論した。『物価水準の上昇は、総需要が何らかの理由で総供給を上回る状況を想定して初めて理解し得るはずである』と。物価水準の下落も同様である。
ここでヴィクセルは愕然とする。自分が新古典派経済学の基本公理を否定していることに気がついたからである。供給は自らの需要を生み出し、総需要と総供給は常に一致するという『セーの法則』である。
だが、すぐに貨幣経済ではセーの法則は成立しないことを理解する。・・・
貨幣経済における不均衡は『単に永続するだけではなく、累積的』に進展してしまう本質的な『不安定性』をもっている。」
 
この後、ケインズとヴィクセルの違いについてもふれている。「ヴィクセル的な不安定性」から資本主義を救う条件として、ケインズが貨幣賃金の硬直性に注目したことだ。これは、物価の下落に対して労賃の下落が遅れる結果、実質賃金が増加し、消費が底支えされる効果のことだ。
 
かつてマルクス経済学に数理的なモデル化手法を取り入れてユニークな実績を築いた置塩信雄教授も景気循環を説明する自身のモデルで、この点を強調していたことを想い出す。
置塩信雄 「蓄積論」1976年)
 
ただし、デフレ、不況下で実質賃金が高止まりすると、個人消費は底支えされる一方、設備投資は抑制されるから、プラスとマイナスの双方の効果を総合して、どちらの効果が大きくなるかは、微妙だと思う。
 
きちんと理論モデルをつくって議論すれば、総合してプラスになる場合とマイナスになる場合の分岐の条件を特定することもできそう。既存研究で、そういう論文もあるかもしれないが、不勉強なので私は知らない。
 
ハイマン・ミンスキーが、面白い。
 
ミンスキーはポスト・ケインジアンの重鎮経済学者ということだ。新古典派、新古典派総合学派、ネオ・ケインジアンへの徹底的な批判が展開されている。そのテーマは資本主義経済の不安定性を外的なショック論ではなく、貨幣経済に内在する本質的な不安定性から説明することだ。この問題関心に関する限り、ヴィクセルやケインズ、あるいはマルクスと同じだね。
 
ただしこの本はちょっと難しいよ。数式の使用は最低限に抑えられているので私でも読めるが、経済学部生のレベルでは難しいだろう。院生以上かな。
 
竹中正治HP
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