ロイターに9月の寄稿をしました。本日掲載です。
 
「人民元国際化に政治の壁」
 
以下結論部分から引用します。
 
「ご承知の通り、中国では現在まで預金金利も貸出金利も当局によって規制・管理されている。現在、輸出や中国国内景気の失速によって中国系企業の利益は大きく減少しているが、国有銀行を中心とした銀行部門は規制された預金と貸出の利鞘のおかげで空前の高収益を上げている。中国の銀行部門の利益のほとんどは制度的に保護された利鞘(経済学では「エコノミック・レント」と呼ぶ)と言えよう。」
 
「そして、国有企業や地方政府は国有銀行から優先的な融資を受けることで、不動産事業などで莫大な収益を稼ぎ、国有銀行・国有企業・地方政府(その経営陣は党組織の官僚も兼ねている)に共通する強い既得権益構造ができあがっている。ところが、内外の資金移動を自由化すると、必然的に国内の規制金利体系は維持できなくなる。」
 
「失脚した薄煕来一族が巨額の資産を海外に移転していたように、この既得権益構造で莫大な富を稼いだ超富裕層は、自らは特権的な地位を利用してその資産を海外に移す一方で、もし対外投資を自由化すればもっと大規模に富裕層の資産が海外に移転し、制御できない事態になる危険性をよく承知している。」
 
「したがって、現実に起こりそうなシナリオとしては、人民元の国際化の前提条件となる内外資金の規制緩和は、それが引き起こす「都合の悪い」変化が見えてくれば、既得権益層の政治的な抵抗で頓挫させられるだろう。この既得権益層の利害に逆らって、経済・金融構造の変革(第二の革命)を成し遂げるような政治勢力は今の中国には見られない。」
 
「また、自由な市場機能にそもそも信頼を抱いておらず、官僚による指令主義的志向の強い中国政府は「管理された人民元国際化」を志向しているとも言われる。しかし、それは概念矛盾に他ならない。既述の通り、トリレンマの原理が示す選択肢は「管理されたローカル通貨」か「取引自由な国際通貨」しかあり得ないのだ。」
 
「あるいは、国内の規制金利を維持しながら、「人民元国際化=内外資金移動の規制緩和」という政策的に不整合な路線を志向してしまうかもしれない。政治的な理由で経済原理に反した制度・政策の大きな不整合を犯した場合、最終的には巨大なしっぺ返しを引き起こすことは、すでにアジア通貨危機を例に述べた。また、現下のユーロ圏のソブリン金融危機が見せつけてくれていることでもある。同種の過ちを中国が将来犯す危険性は、筆者は決して低くないと思っている。」
 
以上、コメントもロイターサイトに歓迎です。
 
追記:本件論考について先輩先生からコメントをEメールで頂いたので、ご了解の上、以下掲載しておきます。9月27日
917PBOCその他公表の中国「金融業改革と発展の第125カ年計画」は、実需原則とリスクコントロール可能性を前提に、人民元の国際的利用を推進すると謳っている。いわゆる「管理された国際化」の基本方針の確認である。この用語は「社会主義市場経済」と同様のOxymoron(「正直なうそつき」的な矛盾用語)であるものの、中国政府が真剣に取り組もうとしていることは間違いない。同時に竹中教授の指摘はもっともであり、人民元の国際化がいつトリレンマと既得権の壁にぶつかるか、その際中国政府がどう対応するのか、今後とも注視していきたい。」
(龍谷大学特任教授、京都大学名誉教授、村瀬哲司)」
 
追加情報(10月4日):中国の高級官僚の不正蓄財の海外持ち出しについて参考論考を添付しておこう。
 
竹中正治HP
http://masaharu-takenaka.jp/index.html (←ホームページ、リニューワルしました(^^)v)
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