ゼロ金利下の量的金融緩和でデフレをマイルド・インフレに転換できるか?この議論、次のように整理すると分かりやすいかもしれない。
 
単純な貨幣数量説の公式: PQ=MV
P:価格、Q:商品の量、M:マネーの量、V:マネーの流通速度(一定期間の回転数)
 
この単純な貨幣数量説は、マネーの役割が①価格表示機能と②商品売買の仲介機能(支払い機能)に限定される場合のみ成り立つ。 その場合、経済主体は受け取ったマネーは即使用して支出に使うわけだから、Vが一定なら、P(価格)はM(マネー量)に比例する。
 
ところがマネーには「価値の退蔵機能」という第3の機能がある。経済主体が受け取ったマネーを退蔵すれば、マネー供給量を増やしても、退蔵されるばかりで支出されないので価格は下がる。デフレというのはこういう状況だ。
 
だから皆がマネーを退蔵したがれば、デフレは自己実現的に起こる。
 
こういう状況下で、中央銀行が対民間で国債を買って、マネーを供給することで何が変わるだろうか?
ここでFRBバーナンキ議長がQE2を始める前の2010年8月に講演で語ったポートフォリオ・バランス効果が持ち出される。
 
今、民間が100兆円の現金、100兆円の株式、100兆円の国債、100兆円の不動産を持っているとしよう。中銀が国債を100兆円買い上げてしまえば、民間のポートフォリオは200兆円の現金、100兆円の株式、100兆円の不動産になる。
 
株と不動産に対して現金の比率が上がったので、株と不動産の価格は上がり、現金の価値は下がる=資産インフレになる。
 
だから「量的金融緩和は財やサービスのインフレは起こすことができないで、資産価格の上昇しかもたらさない」と主張する方々は、ここまでは正しい。
 
しかしこの先がある。
資産価格の上昇が財やサービスへのインフレ効果をもたらす経路は複数ある。
①→正の資産効果による消費増
②→不動産などの担保価値の増加による信用供与増
 
さらに増加したマネーが海外の資産購入に向けられた場合は
③海外資産の購入→自国通貨売り・外貨買い→自国通貨安→輸出増加
という経路も働く。
 
もちろん、資産価格の上昇が財やサービス価格の上昇にまで波及するにはある程度の時間がかかるだろう。2000年代の日本は、株は2003年から不動産は2006年前後から上がり始め、円安も2005年以降進み、CPIがプラスになったのは2007年から08年だった。
 
ところが不運にもその時期がリーマンショックによる世界不況と重なって、信用も需要も縮小に転じてしまったので、インフレ期待が定着しなかったと理解できそうだ。
 
竹中正治HP
http://masaharu-takenaka.jp/index.html (←ホームページ、リニューワルしました(^^)v)
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