昨日4月20日、神戸大学での金融研究会に参加した。以下サイト参照
 
発表者は神戸大学の柴本昌彦講師、関西大学の本多祐三教授、東京大学の植田和男教授(元日銀政策委員でもある)。
 
ゼロ金利下でのクロダショックを含む量的金融緩和の効果をメインに、副作用のリスク、EXITの問題についてまで議論が展開し、懇親会も含めて面白かった。
 
毎度のことだが、自分の浅学を顧みず、フロアーからずけずけと質問や意見させて頂き、楽しんだ(^^)v。
 
以下私の関心を引いたポイントを整理しておこう。
 
柴本氏:2000年代の日銀の量的金融緩和の実証分析から、ゼロ金利下での量的金融緩和政策などが(以下、非伝統的金融政策)が金融市場(長期国債利回り、株価、円相場)に影響を与えることはほぼ間違いない。 しかしそれがさらに物価に与える影響はかなり小さい。
2000年代を対象にした回帰分析結果に基づけば、金融政策だけでインフレ率を2%にするには、生産の28%の増加、株価の280%の上昇を伴う必要がある(そりゃ無理だろう)。
 
私の質問発言:「今回の大胆な量的金融緩和で円安になっているけど、それはインフレ率の上昇→円安というシナリオが働くことを想定して市場参加者は円売り・外貨買いに動いているはずだ。 ところが最終的にインフレにならないなら、それは誤った(裏切られる)期待ということになる。つまり円高への大きな戻りが生じることになるが、そう考えているのでしょうか?
 
柴本氏:「そうかもしれない・・・ただし将来日銀はインフレ2%目標達成のために、更に追加的な緩和政策を行う必要性を強いられ、更に緩和した後、円安が更に起こるという展開になる可能性があると思う
植田氏:「アベノミクスと大胆な金融緩和が一種のイリュージョン(幻想)を生み出している可能性がある。しかしそれが必ず裏切られるかと言うと、市場・経済は期待が自己実現する面もあるので、一概に断定できない」
 
本多氏:同様に2000年代の日銀の量的金融緩和の実証分析(VAR)から、量的金融緩和が実体経済(生産の増加)に与える効果が検証できた。
 
その経路として、株価の上昇が重要な媒介項となっている。
株価上昇→生産増加の経路は以下のものが考えられる。
 
①トービンのQの効果(Q=株価/設備の再生産費用)  他社買収か自前の設備投資かの選択において、株価の上昇は自前の設備投資を有利にする。
②企業の(保有する他社株)担保価値の増加→融資を受けやすくなる。
③銀行の含み益増加による融資余力の増加
④資産効果による消費増
 
懇親会での本多先生への私の質問:「株価上昇→生産増加」の経路は理解できましたが、マネタリーベース(あるいは日銀におかれている民間銀行当座預金)を量的金融緩和で増やすと株価が上がるという部分の経路、メカニズムはどういうものでしょうか?バーナンキが強調したポートフォリオ・リバランス効果で説明できると考えてよろしいでしょうか?
 
本多氏:「実はその点は誰にも確信がない」 
竹中:「えっつ?わかっていないんですか(゜o゜)」
というわけで、期待の変化まずありき、さすれば株価は買われて上がるであろう・・・・ということになってしまったような(^_^;)
 
植田氏:多様な論点を語られたが、日銀が長期債を大規模に買った場合、将来のEXITが難しくなるか?実際にインフレになり、2%を超え始めた時に、金利を上げるのが難しくなるか?この問題について、「みなさんはどう考えますか?」と問われたので・・・
 
竹中:「金利が下がった局面で長期債を日銀が売れば、大きな損失になって、日銀の自己資本が毀損するので、総裁の決断次第だが、国債を売る形の引き締めは取りにくいはず。しかし巨額なリバース・レポで日銀当座預金の超過準備を吸い上げ、コールレートを引き上げることは可能なはずだと思いますが」
 
植田氏:「そうですね。あるいは日銀当座預金の付利(現行0.1%)を引き上げれば、コールレートとの間に裁定が働くので、コールレートも上がる。」
 
竹中:「その場合は、日銀の負債サイドのコストが上昇するので、やはり期間損益が赤字になるので限界があるのでは?」(ここで私は、リバースレポでも当座預金付利金利引き上げでも、日銀の支払い金利コストが増加する点で同じであることに気が付いた)
 
植田氏:「その通りですね。一定の想定の下では、EXITにかかるコストは、期間損益の赤字の総合計も国債売却によるキャピタルロスの合計も同じになる。前者は数年にわたって生じるのに対し、後者は一気に生じるという違いがあるが。
 長期国債を大規模に買う今回のやり方は、将来インフレになった時に機動的に金利を上げることが難しくなるかもしれないというリスク、つまり予定以上のインフレ高進のリスクがあるかもしれないという予想までを織り込んで、円売りや株買いが進んでいる面があるように思う」
 
以上、記述はあくまでも私のメモと記憶によるものであり、3先生の発言趣旨をもし正確に表現できていない場合、その責任はすべて私にある。
 
補足
日銀のバランスシートで負債の約100兆円程度は日銀券の発行残高であり、無利子の負債である。資産サイドには今後、国債残高が一層増えることなるが、低利回りとはいえ有利子資産だ。そこから生じる中銀としての収益(通貨発行益)は大雑把に言って、これまで年間1兆円余りだったはず。
 
将来非伝統的金融政策からEXITする際に生じる可能性の高い損失に対して、この既存の収益源泉は損失を相殺するバッファーとなるはずだが、規模がでかくなるだけに、一定の期間では損失が収益を上回る可能性は当然ある。
 
べき論としては、損が出たって経済的には日銀は政府部門の一部なんだから、数兆円規模の赤字なんか気にせずにやるべき金融引き締めをすれば良い、とは言える。ただしそれがその時の総裁の決断にかかっている問題だろう。
 
余談
懇親会で誰かが言っていた。黒田総裁のもとで今まで日銀が主張してきたこととは大きく違うことをやらされて日銀内部ではストレスが高まっていると思いきや、日銀内部はなんだか吹っ切れたような明るさすら感じられる雰囲気だそうだ。自縛から解かれた? 真偽は存じませんがね。
 
追記:
本日4月22日の日経新聞朝刊記事
「生保、国債新規投資を削減、日銀緩和受け外債シフト」 
日本生命保険など国内主要生命保険各社は日本国債への新規投資を減らす。日銀の「量的・質的金融緩和」で20年債など残存期間の長い国債の利回りが低下し、運用収益をあげにくいためだ。より高い利回りを目指し外国債券や社債などに資金を振り向ける。
 
4月4日に日銀が新しい金融緩和策を打ち出し、長期金利の水準が一段と下がった。これを受け、主要生保は3月末までに立てた2013年度の運用計画を見直した。
日本生命保険は昨年度は1兆円超の買い増し計画を立てた超長期国債の積み増しを抑える。代わりに為替変動リスクを軽減するヘッジ付き外債や満期までの期間の長い社債を買う。三井生命は500億~600億円程度の外債を積み増す。」
 
これはまさにポートフォリオ・リバランス効果そのものですね。
 
追記その24月24日日経新聞記事
「「長めの国債はすべて売った」。日銀が金融緩和に踏み切った翌日の今月5日、横浜銀行頭取の寺沢辰麿(66)は横浜市内で開いたアナリスト説明会で、満期までの残存期間が5年以上の国債を売却し、売却益を確保したことを明かした。
 市場に驚きを与えた日銀の異次元緩和は、地方銀行にとっても衝撃だった。日銀が長めの国債を買う方針を打ち出すと長期ゾーンの国債の利回りが急低下。余ったお金を国債で運用しておけばある程度の利益があがる局面は終わった。
 寺沢は1日に公表したばかりの今後3年の中期運用計画を「5月の連休をメドに見直す」と付け加えた。外国債券や上場不動産投資信託への投資を拡大し、脱・国債依存の傾向を強める見込みだ」
 
こうした動きは昨年までの量的緩和では聞こえてこなかった。ポートフォリオ・リバランス効果を生じるためには巨大な国債市場にインパクトを与えるだけの規模の大きさが必要になる。クロダショックで初めて効果を生み出す臨界点を超えたということだろう。
 
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