国際通貨研究所が開示している相対的PPPについては、著作や日経新聞でも繰り返し紹介してきたので、多少知られるようになったが、図の見方については肝心な点で誤解している方々が多いので、改めて説明しておこう。
もっとも、ここで説明することは新著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」の4章(p126~128)に書いてあるので、既にご購入下さった方は、そこを読んで頂いてもけっこう。
ひとことで言うと、相対的PPPは起点依存だ。つまりどの時点を起点に選ぶかで、市場実勢相場(名目相場)とPPPの位置関係はいか様にも変わってしまう。国際通貨研究所のPPP図表はドル円について1973年を起点にしている。
この起点次第でPPP図の姿がまるで変わってしまうことは、以下に添付した1995年3月起点のPPP図表を国際通貨研究所のPPP図表(1973年)起点と比較すれば一目瞭然だろう。
この1995年という円高に傾斜した時点を起点にしたPPPでみると、市場の円相場はいつも円安にバイアスがかかった動きをしていることになる。しかしそれは間違いで、実は円高にバイアスのかかった1995年3月が起点になっているからそう見るだけだ。
どの時点がPPPの計算時点として最もふさわしいのか、その点については「日本の経常収支不均衡が小さく、変動相場制の移行年時である1973年を選んだ」と私も説明しているが、相対的な問題であり、決定的にこの年次がふさわしいと言えるものではない。
市場相場と特定時点起点のPPPを直接に比べながら、その乖離幅が広がったとか、縮まったのとかコメントしている相場アナリストもいるが、「まるでわかってないね。勉強不足!」としか言いようがない。
起点を変えればまるで水準が変わってしまうPPPと市場実勢を直接比べたって意味がないことぐらいわからないようでは、一般人ならともかく、相場のアナリストとしては失格だ。
それで起点依存に陥らない見方は、実質相場で見ると言うことだ。
実質相場指数=名目相場/PPP
つまり実質相場指数は名目相場(市場相場)のPPPからの乖離度を指数化して示したものだ。
実質相場の長期にわたる平均値をとり、この平均値からの乖離を見ることで、当該通貨相場の割安割高を見抜くことができる。 これならば特定時点の起点に依存せず、対象となった全期間の平均値との比較になる。その図は以前にも繰り返し紹介しているが、以下に添付した(2番目の図)。
もちろん、通貨相場は短期的な振れ、行き過ぎもあるので、一定の幅をフェアウエイにして見ることだ。
図ではひとつのめどとして平均値から±10%の水準にグレーの線を引いてある。
さて、ユーロドルの相場でも単にPPPと市場実勢を比べていては、特定の起点(1999年)に依存した見方になってしまう。そこで以下3番目にユーロドルの実質相場指数と1999年からの平均値を示した。
これをご覧になって「それでもユーロの実質相場指数は2005年以降は下がっても平均値をほんのちょっと下回る程度で、平均値を上回っている時期が長い。なんで?」という質問を発することはできる。
考えられる理由はとりあえず2つ。
1、長期の平均値と言っても相対的なものであり、今後の相場変化次第で変わる。 もしかしたら現在までの平均値はもっと長期ではやや低めなのかもしれない。
2、これからユーロはもっと大きな下げ場面が来るのかもしれない。
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