以下の論文を執筆、掲載しました。国際通貨研究所の佐久間さんとの共同論文です。
同研究所の「国際経済金融論考」としてサイトに掲載されています。
9月の日本金融学会秋季大会で発表予定の論文ですので、一応学術的な体裁で書いていますので
ちょっと小難しいかもしれませんが、ご関心のある方、どうぞご覧ください。
 
「2000年代の金融危機と外国為替相場の変動について~日本円と韓国ウォン相場の非対称性を中心に」 国際通貨研究所、国際経済金融論考、2013年第2号、2013年6月3日脱稿
 
結論要約
~実質金利格差感応度の高い円相場とリスク・プレミアム感応度高いウォン相場~
本論文は20089月のリーマンショックによる金融危機を挟んだ20051月から133月の期間を対象に、この時期の為替相場の短期・中期的変動の要因と特徴をドル円とドルウォンの相場を中心に説明することを試みた。
回帰分析の結果、双方の実質為替相場とも、米国との実質金利格差、リスク・プレミアム(米国のBBB債利回り-AAA債利回り)の2要因によって60%以上の説明が可能であることをわかった。
 
ただし両通貨の相場の上記2要因に対する感応度は二重の意味で非対称的である。第1にリスク・プレミアムに対する感応度はドル円とドルウォンでは正反対である。第2にドル円相場では実質金利格差に対する感応度が全対象期間を通じて高く、リスク・プレミアムに対する感応度は20089月のリーマンショック前後の比較的短い期間に限られた。一方、ドルウォンは実質金利格差に対する感応度は全期間を通じては不安定である一方、リスク・プレミアムに対する感応度は極めて高かった。
 
こうした両通貨相場の変動要因の非対称性の背後には、両国の対外資産・負債ポジションの相違、円が国際通貨として先物為替取引などを中心としたオフバランス取引による大規模なキャリートレードの対象になり、金利格差感応度の強い特徴を帯びる一方、ウォンは非国際通貨としてオフバランス取引の規模が限定的であり、むしろ現物の対外的な資金フローの変動に強く規定されるリスク・プレミアム感応度の高い性質を帯びているという相違が考えられる。
 
 またドル円相場について、リーマンショック後2012年暮れまで円高基調が継続した主因は、日米の短期金利がほぼゼロ近傍に張り付いたまま、日本の企業物価指数に見られる物価の下落が米国に比較して著しく、そのため実質金利格差要因が円高・ドル安方向に持続したためと言える。
 
 こうした円高基調は、アベノミクスと黒田日銀総裁下での「かつてない大胆な金融緩和」によってデフレ脱却マイルド・インフレへの転換期待が醸成されるに至り終焉し、円安方向への急激なシフトが生じた。
ただし、1ドル=100円台前半の名目相場は、本論文での回帰分析で得られた推計値に基づいて推計する限り、日本の企業物価指数で前年比78%もの上昇期待を織り込んだものであり、これはリーマンショック直前の2008年央の水準に並ぶものであり、当時の消費者物価指数は一時的に2%程度であった。
その意味では、1ドル=100円台前半のドル円相場は、米国の名目金利やインフレ率など他の事情が変わらない限り、日銀が2015年春までに目標とするインフレ率を既に織り込んでいる可能性が高く、その実現可能性について期待が後退する場合には、円高への揺れ戻しの可能性を示唆していると言えよう。
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