今年の5月以降、国際的なマネーフローの動向は乱気流局面に入ったようだ。具体的にはエマージング諸国から流出する資金フローが増えており、それがこれら諸国の対ドルでの通貨安、株価下落を引き起こしている。
 
まず為替相場を見ると、ブラジル、メキシコ、インド、ロシア、マレーシア、タイ、オーストラリアなど昨年まで海外からの資金流入が強すぎることが問題になっていた諸国の対ドル為替相場が今年の5月頃を境に下落している。管理相場の色彩が強い人民元ですら直近が上昇基調が止まった。(以下サイトで確認できる)
 
これら諸国の為替相場の下落にほぼ並行して株価も下落に転じている。
そうした動きを一括りにしてみるためには、以下のエマージング諸国の株価指数であるMSCI-Emerging(ドル建て)のチャート適当だろう。5月から下落に転じている。
https://www.google.com/finance?q=EEM
 
こうした変化に注目した記事としてWSJの6月12日の記事を紹介しておこう。
 
エマージング諸国をめぐる国際的な資金フローの動向は、世界の投資家のリスク許容度の変化に大きく依存していることが実証研究でも確認されてる。すなわち、リスクオンと呼ばれ、投資家のリスク許容度が上昇する(=リスクプレミアムが低下)場面では、これら通貨は対外的な資金流入の強まりにより、通貨相場は上昇する。逆に、リスクオフと呼ばれる反対の局面(リスク許容度の低下=リスクプレミアムの上昇)では、対外的な資金流出が強まり、通貨相場は下落する。
 
そこでリスク・プレミアムの上昇が確認できるかどうか見ておこう。
リスク・プレミアムの指標はいろいろあるが、世界のマネーフローが流出入する米国の債券市場のリスク・プレミアムの変化で見るのが、ひとつの代表的な見方だ。
図表はFRBが公表しているBBB格付け債の利回りからAAA格付け債の利回りを引いた形でリスク・プレミアムの推移を示したものだ(格付けはムーディーズ)。
 
以下に添付の上段の図は月次データであり、リスク・プレミアムは昨年は1.3~1.5%とやや高めの水準だった。それが昨年暮れから今年4月までは低下して0.8%台と低位な水準にとどまっていた。ところが5月から反転して足元では1.0%(6月25日)を僅かに超えるところまで上がっている。
 
下図はリスク・プレミアムの推移を日時の変化で示したものであり、5月以降ジリジリっと上昇して1.0に絡む水準になっていることがわかるだろう。
 
FRBのデータサイトは以下
 
今後はどうなるだろうか?中国の不動産・金融バブル崩壊を語る報道がやはり5月以降、急速に増えている。このまま中国を含む新興諸国の成長失速で再度世界的な景気後退というリスクシナリオも描けないわけではない。
 
ただし図表のリスク・プレミアムの変化を見る限り、上昇幅は現状のところ軽微にとどまっている。むしろ、昨年暮れから今年春にかけてのリスク・プレミアム低下が行き過ぎだったのであり、5月以降の変化はそれまでの過度な楽観が修正・調整されている過程だと考えるのが現状では妥当であろうか。
 
当面はこのリスク・プレミアムの上昇が昨年のように1.5程度の水準まで再上昇するか、あるいは1.0近傍にとどまるか、要注意であろう。前者の場合は、波乱相場の長期化、深刻化を覚悟する必要があるだろうが、後者の場合には新興諸国をめぐる変調が米国や日本の株価に与える影響も、短期的な波乱で済むだろう。
 
筆者の見解としては、後者の慎重ながら基本楽観のケースの可能性が高いと予想しておこう。
この点の判断については、主観的な蓋然性でしかないけどね(^_^;)
 
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