7月5日(金曜日)の米国市場の反応は注目に値する。事前予想より強めの雇用統計の発表を受けて、10年物米国債利回りは21BPも上昇したのに、株価はS&P500で16.48(前日比1.02%)も上昇して引けた。
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5月~6月の米国市場の展開は、強めの景気指標が出るとFRBの量的金融緩和の早期縮小の思惑が強まり、債券利回りが上昇、一方株価は下落するという傾向が繰り返された。
だから次のような悲観的なコメントをするエコノミストも多かった。
 
山上えつ子、トムソン・ロイター社コラム、6月21日
引用:「このようなQE縮小相場第2弾は何をもたらすだろうか。米国経済に対しては長期金利の上昇および株式相場の下落が景気回復の勢いを削ぐリスクがあり、一部エマージング諸国には急速な資本流出が為替レートの急降下をもたらし、国内にインフレと景気減速、金融市場の不安定化をもたらすリスクがある」
 
しかし景気の回復が持続すれば、現在の超金融緩和が最終的に終焉するのは当然であり、株価も実体経済の回復持続を受けて上昇基調を辿ると考えるのが、自然、当然の判断だろう。要するに超金融緩和に依存した株価上昇トレンドから、実体経済回復に裏打ちされた株価上昇トレンドへの移行がいずれ起こると私は考えて来た。(以下参照)
竹中正治、トムソン・ロイター社コラム、6月20日
 
まとめると2つの異なる局面での相場変化の組み合わせは以下の通り。
金融緩和依存相場:強い景気指標=金利上昇=株価下落、弱い景気指標=金利低下=株価上昇
実体経済回復相場:強い景気指標=金利上昇=株価上昇、弱い景気指標=金利低下=株価下落
 
金融緩和依存相場は、不況から景気回復期への転換局面、あるいは景気回復期の早期局面で時折見られるものだ。
 
しかし米国の景気サイクルは2009年を底に穏やかながらも回復が継続している。今さら不況から景気回復期への転換局面というわけではないのだが、次の2つの事情が金融緩和依存相場を長引かしたと考えられる。
 
ひとつは2009年不況の戦後かついてない深さだ。GDPも株価も2007年のピークを既に越えているが、不況期の雇用喪失規模が極めて大きかったのでゼロ金利下での量的金融緩和という超金融緩和が現在まで続いた。
 
もうひとつの理由は、2011年~12年前半にかけて住宅価格の軟調、「財政の壁」懸念などの事情で回復がもたついたことだ。
 
金融緩和依存相場から実体経済回復相場への移行過程で、債券利回りの上昇と株価の下落が併存することは過去も見られたことだった。
 
例えば1994年春、景気回復が鮮明になって来たのでFRBが金利引き上げに動くと、この時の金融引き締めへの転換がやや唐突で金融機関などはポジションの準備ができていなかった(つまり長期債券のロング・ポジションをたんまり抱えたままだった)ので、債券利回りの急騰(債券価格の急落)と株価下落が同時に生じた。
 
ただし、こうした移行時の現象は大局的に見れば所詮短期的、過渡的な局面に過ぎない。5月から6月の米国債券利回りの上昇と株式相場の反落はそうした超金融緩和依存相場から実体経済の回復に裏打ちされた相場への移行過程なのだと考えて来た。
 
問題はいつその移行局面が終焉し、実体経済回復型の相場にシフトするかだ。
この点で7月5日(金曜日)の米国市場の反応は注目に値する。事前予想より強めの雇用統計の発表を受けて、10年物米国債利回りは21BPも上昇したのに、株価はS&P500で16.48(前日比1.02%)も上昇して引けたのだ。ドル円相場はドル金利の上昇を映して101円台で引けた。
 
まだ一回限りの変化では局面移行を確認するには早過ぎるかもしれないが、6月のFOMC会合の声明とバーナンキ議長の記者会見を経て市場は既に今年後半の量的金融緩和縮小を予想に織り込み、実体経済回復相場が始まった可能性がある。
 
掲載図は、米国Investment Company Instituteが発表している米国のmutual funds(日本の公募投資信託に相当)のネット資金流出入である。  赤字(下向き)が資金流出、黒字(上向き)が流入、単位は100万ドル。6月に債券投資系ファンドから大規模な流出が見られる。米国内株投資系ファンドへの資金流入は6月の時点ではまだ確認できないが、7月移行のデータでそうした動きが見られれば、実体経済回復相場が始まったと確認してもよいだろう。
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