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http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE96T02F20130730?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0
 
ポイント引用:「今年5月以降、それまで新興国に流入していたマネーフローが流出に転じ、これら諸国の株価も為替相場も下落に転じた。このことが世界経済の不安定化要因のひとつとして懸念されている。しかも、米連邦準備理事会(FRB)の量的金融緩和(QE)縮小見通しの表明がその原因になったという論評が多い。しかし、そうした理解は私には「原因」と「きっかけ」を混同しているように思える。
 
事実関係を見ると、新興国への資金流入の減少、あるいは資金流出の傾向は、FRBがQE縮小の可能性を表明する以前の今年2月頃から始まっている。
図を見てわかる通り、11年5月(緑のスポット)以降、OECD景気動向指数は中心軸の左側に移動し、対前年比較で景気が弱くなっていることを示している(後述するが興味深いことにロイター・ジェフリーズCRB商品指数が示す国際商品市況もほぼ同じ時期に上昇から下落トレンドに転じている)。
 
それに応じて、株価指数は下方向にシフトし、11年9月(黄色のスポット)には前年同期比でマイナスとなった。つまり、新興国の株価下落はこれら諸国の景気動向を反映したもので、今年5月のバーナンキ議長によるQE縮小の示唆発言よりずっと前に始まっていた変化だといえよう。
 
(米国の対外的なマネフローを見ると)、大きな変化を示している項目がある。証券投資以外の資金フロー、具体的には在米銀行のドル建て負債勘定が米国への資金還流方向に大きく動いていることだ。この項目での米国への資金還流額は4月999億ドル(約10兆円)、5月1380億ドル(約14兆円)と巨額なものとなっており、既述の証券投資フローより桁がひとつ大きい。
 
この還流規模はリーマンショック直後の08年10月に次ぐものだ。この項目は在米銀行の対外的な負債勘定であり、その資金還流とは在米銀行の一種の対外的なデレバレッジが起こっていることになる。
 
ここでいう「ドル売りキャリートレード」とはドル借入を負債サイドに置くもので、資産サイドには新興国の株式、債券、不動産、さらに金(ゴールド)や銅をはじめとする様々な資源系国際商品が載っている。ドル相場が上昇(現地通貨が下落)すると為替損が生じるリスクがあるが、負債(ドル借入)と資産(現地通貨建て資産や資源系国際商品)の期待リターン格差が拡大したことが、強い誘因となってドル売りキャリートレードが拡大した。その過程で、新興国では自国通貨相場の上昇、株価や不動産価格の上昇、ならびに国際商品価格の上昇などが起こった。
 
5月のバーナンキ議長のコメントに反応して上昇したのはドルの長期金利である。短期金利はゼロ近傍のままだし、それが引き上げられるのはどんなに早くても14年半ば以降だと見込まれている。ドル売りキャリートレードの負債サイドは通常は短期のドル借入であるから、まだ慌てなくても良いはずではないか。
 
投資市場とは欲望と恐怖のゲームの場である。次第に陰りが濃くなる新興国の景気や国際商品市況の低下に不安を感じながら、ドル売りキャリートレードの手仕舞いのタイミングに気をもんでいた投資家達は、今年5月に雪崩を起こすように手仕舞いに殺到した。そのきっかけは、ある意味では何でも良かったのだ。
 
大手ヘッジファンドが中国のシャドーバンキングに絡む投資で巨額の損失を出して行き詰ったという観測情報も、投資残高の手仕舞いに拍車をかけたのだろう。また、「FRBのQE縮小が投機マネーの縮小を招き、資産価格の下落につながる」という直観的な連想と恐怖に突き動かされた者もいただろう。
 
問題は、ドル売りキャリートレードの残高は一部が手仕舞われたとはいえ、どの程度残っているかだ・・・・」
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