「大いなる探求」(Grand Pursuit  Can mankind control the economy?)シルヴィア・ナサー、新潮社、2013年6月
これはユニークな経済思想史だ。

マルサス、マルクスまで遡って、各時代の経済学の巨匠達に焦点を当てている点では経済学史の範疇だろうが、学説の詳細ではなく、それぞれの時代の問題状況にいかに関わったかを描いている。その際の一貫した視点はサブタイトル “ Can man control the economy?”の通りだ。

著者はジョンFナッシュの半生を描いた「ビューティフル・マインド」で一躍世界的に有名になった元ジャーナリスト、今ではコロンビア大学大学院でジャーナリズム学科の教授だ。ジャーナリズム特有の「現場を見ていた」かのような書きぶりが、その時代の雰囲気(もちろん私も経験しているわけじゃない)に読者を引き込む効果をあげている。

マルクスの人物像については、私にとっては「そっか~、たしかにそんなキャラだったんだろうなあ・・・」との新鮮な印象を与えてくれた。

細かい点では、ケインズが第1次世界大戦後に保険会社の会長に就任していることは良く知られているが、 当時のケインズはリスク分散や投資のリスクとリターンの二律背反関係を知らず、その点ではフィッシャーの方が革新的だったというような指摘が興味深い。

翻訳本は上下2巻の大著だが、内容的には学部の学生諸君でも楽に読めるだろう。
今夏のお薦めの一冊にあげておこうか。