以前から気になっていることなのだが、なぜか目立った議論にならない問題を紹介しよう。
日本や米国、欧州主要国の公的年金は、世代間扶養、賦課方式とよばれ、積立方式とは区別されている。
要するにその時の年金受取り世代の年金給付をその時の現役世代が負担する方式だ。反対に民間の年金システムはほとんど積立方式で、自分(自分達)が積み立てた年金積立金を引退すると取り崩して給付を受ける。
世代間扶養の賦課方式が、少子高齢化の結果、長期的に持続困難なるのは当然で、そういう指摘もはるか昔から繰り返されてきた。
ただし日本の公的年金制度は完全な賦課方式かというとそうではないようで、120兆円に及ぶ年金積立金が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)で運用されている。 GPIFはこの点をホームページで以下の様に説明している。
引用:「日本の公的年金制度(厚生年金保険及び国民年金)は、基本的には、サラリーマン、自営業者などの現役世代が保険料を支払い、その保険料で高齢者世代に年金を給付するという「世代間扶養」の仕組みとなっています。
つまり、現在働いている世代の人達が受け取る年金は、その子ども達の世代が負担することになります(自分が積み立てた保険料が将来年金として戻ってくる仕組みではありません。)」
「しかしながら、日本は、少子高齢化が急激に進んでいます。現在働いている世代の人達の保険料のみで年金を給付すると、将来世代の負担が大きくなってしまいます。そこで、保険料のうち年金の支払い等に充てられなかったものを年金積立金として積み立てています。
この積立金を市場で運用し、その運用収入を年金給付に活用することによって、将来世代の保険料負担が大きくならないようにしています。なお、年金積立金の運用にあたっては、「長期的な観点から安全かつ効率的に運用」することを心がけています。」
つまり現在の120兆円余りの年金積立金は、賦課方式制度の下での少子高齢化に対応するための一種の補完であるということになる。もっとも、それでも現行の積立残高は予想される少子高齢化による年金の負担と給付の世代間格差を相殺するには十分でなく、後世代ほど負担増・給付減にならざるを得ないことは繰り返し指摘されている通りだ。
現行の積立金では不足であることはともかく、積立金は本当に世代間の負担と給付格差の補完になるのだろうか? これが私の疑問だ。というのは以下のGPIFのサイトで示されている通り、積立金の60%は日本政府の国債で運用されているからだ。
これは日本に限ったことではなく、米国では公的年金としてのSocial Security Systemの余剰金はすべてそのために発行されている連邦政府債の購入に向けられている。
しかし、よく考えてみよう。自分個人や一企業の年金ならば現在の余剰金を国債に投じて積立て、将来取り崩す(国債を売る)ことは何の問題もない。 しかし一国の公的年金はそれでOKと考えるのは合成の誤謬ではなかろうか?
将来の国債の償還コストは誰が払うのか? それは将来の現役世代が税金で負担するしかないだろう。とすると・・・・積立金なしの完全な賦課方式で将来の引退世代の給付金を将来の現役世代が全部負担するのも、積立金を国債で運用してそれを将来の引退世代の給付金の支払いにあてるのも、将来の現役世代が負担するという点では同じではないか?! 違うのは将来の現役世代の負担の仕方が、年金の徴収の形をとるか、国債償還のための増税の形をとるかというだけだ。
従って国債で運用されている積立金部分は、世代間格差の補完としては何の役にもたたないのだ。そう結論するのが論理的ではなかろうか。つまり金庫は空(カラ)ということだ。
このような問題が生じるのは、政府の国債には何の資産サイドの裏付けもないからだ。ここで言っているのは赤字国債のことであるが、企業の株式や社債と異なって、政府の赤字国債には付加価値を生み出す何の資産サイドの見合いもない。返済原資は将来の現役世代の納税(増税)だけだ。
この問題を回避する方法もある。年金積立金の運用を内外の民間企業の株式、社債、並びに外国の政府債に限定することだ。 民間企業の社債、株式ならば付加価値を生み出す資産の見合いがある。外国政府の債券ならば、その将来の返済原資は将来の外国の納税者のおさめる税金だ。
したがって、こうした運用ならば金庫はカラではない。
しかし、この問題は表立って議論されることなく、財政学者なども正面から取り上げていないように思うのだが・・・・それを言ったら年金制度のへの信頼を含め、これまで積み立てて来たものが全て崩壊するからだろうか? しかし崩壊して消し飛ぶのは積立金という幻想に過ぎない。
幻想にすがるよりも、はやく目を覚ました方が良いのではないか。
関連ブログ:「低成長と財政赤字の関係」
参考に以下のJCERの愛宕さんの短いコラムもつけておこうか。
私は世代間会計に基づいた論文などを読んで知っていたことなので、今さら驚かないが、
まじに考えるほど「戦慄すべき事実」である。
新著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日
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