新築マンションの販売、中古マンションの売買、双方とも前年比で目立って増加してきた。新築のマンション販売の増加は、来年4月からの消費税引き上げ前の駆け込みという事情もある(もっとも4月以降利用できる予定の税制の優遇を使うと駆け込む必然性はあまりない)。
しかし中古マンションについては仲介ならば消費税はかからないので、景気回復継続期待、アベノミクスによるインフレ期待、東京ではオリンピックに向けた不動産価格の上昇期待など複合的な要因だろうか。
9月27日付け日経新聞記事
引用:「不動産経済研究所(東京・新宿)は17日、8月の首都圏の新築マンション発売戸数が前年同月比53.3%増加したと発表した。東京都心の大型物件の供給が全体を押し上げ、戸数は8月としては8年ぶりの高水準となった。」
レインズタワー2013年9月レポート(10月10日リリース)
引用:「首都圏中古マンションの成約件数は3,123件(前年同月比12.5%増)で、13カ月連続で前年同月を上回っている。1都3県そろって前年同月を上回っており、東京都は前月に続いて2割を超える増加。成約㎡単価は首都圏平均で40.95万円(前年同月比8.7%上昇、前月比2.3%上昇)で2カ月連続の上昇」
市場が動いているので、仲介業者の動きも活発になっている。中古については基本的には売り物件を求める動きが強かったが、ここにきて価格の上昇をうけて売り物件の供給が増え始めた感じだ。
景気の波が現在のように上がり始めているが、まだ一方向に傾いていない状況では、中古マンション市場も強気弱気や売り買いが交錯するようだ。
私に関していうと、2000年に中古で坪単価200万円で買ったマンション(1999年完成、都心)を
坪単価187万円で売ることになった。ローンは2007年に完済しているから、3000万円ほど現金ができる。 (坪単価とは価格を専有面積(坪)で割ったもの。)
普通預金に積み上げていても運用にならないので、「良さげな投資物件があれば現金で買いますよ」と3社ほどに声をかけておいた。もちろん売った物件以上のリターンが期待できるものでなければ買う意味はない。
1か月ほど物色していたら、良さげなものが出てきた。築5年、坪単価201万円だ。単利のネット利回り(管理費・修繕積立金、資産管理手数料差し引き後)6.0%だ。 買うことにした。まだ契約までは至っていないが、これが買えればうまい具合に「高く売って、安く買う」の資産入れ替え大成功だ。
「おいおい、ちょっと待てよ。売った価格は坪単価187万円、買う価格は同201万円、これのどこが高く売って、安く買うだ? 逆になっているじゃないか?」
そう思われた方は、不動産、マンション投資のイロハがわかっていない。私が近著「稼ぐ経済学」で、あるいは2008年の「資産運用のセオリー」の中で強調して説明している「資産価値は収益還元法
(discount cash flow)で計算しなさい」を知らない、あるいは理解できていない方だ。
価格は収益還元法で現在価値を求めて算出する。投資のリターンはIRR(内部収益率)で計算する。
エクセルで簡単に計算できるし、私のホームページにもすぐ使える計算フォームを張り付けてあるのだが、これを実践している個人投資家は稀だ。
私の売った物件のIRR(内部収益率)は現行家賃をベースにすると4.0%だ(ネット家賃利回りを価格で割った単利では5.4%)。一方、これから買おうとしている物件のIRRはやはり現行家賃をベースにすると5.4%(同単利では6.0%)になる。 これが「高く売って、安く買う」の意味だ。 ちなみに現行家賃は市況比いずれも平均的な水準である。
こう言ってもわからない方は、決してマンション投資に手を出してはいけない。まずは弊著「稼ぐ経済学」を読まれてからにした方が良いだろう。
discount cash flowの使い方がわからない方でも、「年間家賃/購入価格=表面利回り」で単利の利回りを計算している方は多い。 業者もそれをベースに薦めてくる。 ただし収益になる家賃から経費(管理費、修繕積立金、管理手数料、税金その他)を引いたNOI(net operating income)で計算すべきである。 税金部分が事前にわからない場合は、それ以外の経費だけでも差し引いてネット家賃利回りを計算しよう。
さらに多少投資に手を染めた方なら、築年数の経過とともに求めるべきNOIのリターンは引き上げるべきことを知っているはずだ。 しかし築年数の経過に合わせてどの程度上げるのが合理的だろうか?この点もやはり収益還元法とIRRを使えば計算できるが、これをきちんと考えてやってる個人投資家はやはり稀だ。
そこで築年数とNOIリターンの関係をひとつの目安として以下に例示しておこう。
試算の前提条件は以下の通り。
新築マンションの寿命: 48年(日本のコンクリート建物の法定耐用年数)
寿命到来時の価値: ゼロ(実際は建物の価値はゼロでも土地の価値が残るが、解体コストもかかるの で相殺してゼロと想定)
専有面積: 50平米
ネット賃料: 月額15万円(実際は物価変動がなくても老朽化によって賃料は下がると考えるべきかもし
れないが、ちゃんと補修され装備も更新されている都心部のマンション賃料は価格と異なり、築年数
が古くなってもあまり下がらないようなので、賃料不変の想定)
空室リスク: 考慮しない最大リターン
実現すべきIRR(内部収益率): 5.0%(一番需要な項目がこの水準設定)
以下の掲載図表は、図表の築年数に対応したNOIリターンで買えば、上記の想定の下に5.0%のIRRが実現できることを示している。
ただし築年数0、すなわち新築でNOIリターンが5.5%の物件なんて、特殊な事情の例外を除くとありえない。それは価格に新築プレミアムがのっているからだ。でも築10年で6.0%前後の物件ならチャンスはある。新築プレミアムが剥げ落ちているからだ。
また、これはあくまでも単純化した想定の下でのめど値であり、築15年以上は物件の補修やら装備の更新などのコストも増えてくるので、図表が示すNOIリターンよりもさらに0.5~1.0%程度高くした方が良いだろう。
今回のようにほぼ同時に(売買に時間がかかるマンション投資の場合、1か月程度の時間差はほぼ同時と言える)高く売って、安く買う入れ替えができるのは、ラッキーなケースだと思う。それに税金や仲介手数料もかかる(仲介手数料は概ね価格の3%)ので、最終投資家には株式のように短期の売買は無理だ。したがって、著作のなかで強調している通り、長期保有を前提に不況時に安く買って、好況時に高く売るのが基本方針だ。
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新著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日