前回のマンション投資の築年数と賃料利回りに関するブログが好評だったので、続けてもうひとつ書いておこうか。 金融・投資について素人の方がほとんどする過ち、あるいはバイアス(判断の歪み)が現金主義的な発想だ。
 
最も典型的には、投資目的でローンでマンションを買う場合、月々のローンの元利金の支払いと賃料の受取額(経費差引後)の合計で若干のプラスにしたい、あるいは最低限受払額をチャラにして自己資金の持ち出しを最小限にしたい、その方が有利だと考えている方々が実に多いことに驚かされる。
 
ローンの期間を長くするほど、月々の元金返済部分の金額が減るので、毎月の元利均等で計算される返済額は小さくなる。したがってローン期間も30年、35年と長くする方が実に多い。
 
また、投資を始める際の自己資金も購入価格の1割以下とか、できれば全額ローンで買いたいと考える方も実に多い。
 
こうした現金の受払いのみで損得を考え、投資期間中の自己資金の持ち出しが少ないほど有利だと考える傾向を「現金主義の誤謬」と呼ぶことにしよう。 金融・投資についてまともな学習、訓練を経た投資家の目から見れば、児戯に等しいような選択だ。
 
そのことがわかるように、以下に2つのケースのキャッシュ・フローと最終的な投資結果がわかる表を添付したので、拡大してご覧頂きたい。
 
ケース1は3000万円のマンションを1000万円の自己資金、2000万円の銀行借入、ローン期間10年で買った場合だ。自己資金に対する借入金の倍率(金融レバレッジ比率)は2倍である。 貸し手の銀行にしてみると、物件価格の3分の2しか貸していないことになる。
 
つまり、もし仮に債務者がローンの支払いができなくなり、担保処分のために物件を売る時でも、購入時の価格の3分の2以上の価格で売却できれば、銀行はローンを全額回収できることになる。返済が進めば購入金額に対するローン残高の比率はさらに下がっていくので、銀行がローン残高を全額回収できなくなる可能性はとても低い。したがって、適用金利は優遇され低い金利を引き出すことができる。例では仮に2.5%とした。
 
しかしローン期間を10年と短めに設定したので、毎年の受払いネットのキャッシュフローは31万円の持ち出し(支払超過)だ。5年目に6か月テナントが入らず空室になったことを想定してある。その年は128万円の持ち出しになる。
 
ケース2は反対に自己資金は100万円のみ、2900万円の銀行借入、ローン期間は35年と最長を選んだ場合だ。上記と反対の理由で銀行にとっては与信リスク(債務者が返済不能になった場合のローン回収不能リスく)が高くなるので、適用金利は高くなる。ここでは3.5%とした。
 
毎月、あるいは毎年の元利均等返済額がどのようになるかは、以下のサイトで簡単に計算できる。
 
さて、双方のケースとも賃料利回り(経費差引後)は195/3000=6.5%と想定してある。そして10年後に売ったとしよう。売却価格は年率2.5%で経年による老朽化で価値が減少したものとして計算すると、2329万円=3000×(1-0.025)^10となる。 ^はエクセルの累乗の記号である。
 
10年後の売却時点で、ケース1はローンの返済が終わっている。一方、ケース2は2394万円の未返済ローン残高が残っているので、売却代金でローンの残りを返済することになる。
 
表でそれぞれカラーをした列が売却までを含めた10年間のネット・キャッシュ・フローだ。
 
ケース1の青色列では10年間のネット・キャッシュ受取が、919万円である。もし買った時と同じ3000万円で売れた場合のネット・キャッシュ受取は1590万円になる。
 
ケース2の黄色列では同様にネット・キャッシュ受取が250万円である。もし買った時と同じ3000万円で売れた場合のネット・キャッシュ受取は921万円になる。
 
最終的なネット・キャッシュ受取額はケース1の方が671万円多くなる。もちろん投資した資金量がケース1の方が大きいのだから、ネットの回収額も大きくなるのは当然だろう。
 
むしろ注目して頂きたいのは、10年たった時点のマンション価格の変動に対する損益分岐点(ここではネット受取額がプラスではなくマイナスになってしまう売却額)が、大きく違うことだ。ケース1でマイナスに転じる価格水準は1409万円、ケース2では2079万円となる。
 
つまり自己資金をより多く投入して、その結果、低い金利で短い期間のローンを組んだ方が、価格下落に対する耐久度がずっと高くなる(損益分岐点がずっと低くなる)ということだ。 投資家の失敗・破綻リスクはケース1の方がずっと低いのである。
 
逆に言うと失敗・破綻事例はほとんどの場合、次のような条件下で生じている。
購入価格の100%ないしはそれに近い比率でローンを長い期間(例では35年)で組む。
したがってローンの適用金利が高い。
投資家に自己資金の余裕が乏しい。
 
これに「新築マンションを業者の売値で買っている」という条件が加わると、投資の失敗はほとんど必然だと断言できる。
 
なお、ネット・キャッシュ・フローのIRR(内部収益率)を比較すると、ケース1では6.0%、ケース2では
41.7%となり、ケース2の方がずっと高くなるが、これはケース2が購入時点で自己資金に対するローン比率が29倍(金融レバレッジ比率29倍)と極端に高いからに他ならない。そしてレバレッジ比率の高さに見合って、リスクも極端に高くなっているということに他ならない。
合理的で賢明な投資家のすることではない。
 
関連論考:「REIT高騰に続くか、マンション投資の鉄則」 トムソン・ロイター社コラム、
 
http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakamasaharu/  Yahooニュース個人
 
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