NHKBS、日曜日夜のドラマ、「ハードナッツ、数学 ガールの恋する事件簿」(全8回、2回目終了)が面白くて見ている。 主演の女優はNHK朝ドラ「アマちゃん」でユイちゃん役を演じた橋本愛(役名:難波くるみ)だ。
 
第2回で出てきた数学ネタのひとつは以下の通り。
相手役の若い刑事、伴田が検診の結果、1万人に1人といわれる難病の検査で陽性と出て、再検査の必要を通知される。 検査の精度は99.9%、伴田は助からないと覚悟する。
 
クライマックスで爆弾魔の罠にはまって爆弾を仕掛けられ、動けなくなった伴田は「オレはどのみち死ぬ身だ。オレにかまわずにお前は逃げろ」とくるみに言う。
しかし、くるみは、「あれ~伴田さんが病気で死ぬ確率は・・・約1割でしかないですよ!」と言う。
 
「えっ!そうなの?なんで・・・・?検査の精度は99.9%なんでしょ」と視聴者に思わせて、その場でくるみが説明する。
 
「だって、検査の精度が99.9%ということは、10,000人のうち、0.1%、つまり10人は病気でなくても、検査で陽性と出てしまうということでしょ。でも実際に病気になるのは10,000人に1人だけ。だから~検査で陽性と出た伴田さんが本当に病気だという確率は、約1割でしかないんです!」(愛ちゃん、かわいいなあ・・・(^_^;))
*****
 
これは統計や認知心理学の一般書などで、人間が正しい確率的計算が苦手であることの事例としてよく紹介されるケースだ。 検査の精度が99.9%と言われると、検査で「陽性」と出ると「ほぼ確実に、99.9%の確率で病気だ」と思ってしまう。しかし実際には、検査の適否は検査の精度と当時に現象(ここでは病気、罹患比率)の度合いに依存している。
 
ドラマのこの場面で、一緒に見ていた家族に「今の愛ちゃんの説明、わかった?」と尋ねたら、中学2年生の息子は「わからない・・・」、一方 大学1年生(理系)の娘は「あったりまえのことでしょ」との反応、やはり統計の基礎で習っていないと瞬間的にはわからないよね。
 
以下解説
罹患(病気)比率:0.01%(10,000人に1人)
検査の精度:99.9%(0.1%は誤った結果が出る)
 
非罹患者(問題なし人)9,999人
①うち検査で陰性(病気でない)と出る人数:9989=(9999×0.999)  正しい検査結果
②うち検査で陽性(病気だ)と出る人数:9.999=(9999×0.001)     誤った検査結果
罹患者1人 
③うち検査で陽性(病気だ)と出る人数:0.999=(1×0.999)      正しい検査結果
④うち検査で陰性(病気でない)と出る人数:0.001=(1×0.001)   誤った検査結果
 
検査で陽性と出る②と③の合計は、10.998人
そのうち、本当の罹患者は③の0.999人だけだから、陽性と出た人数のうち、実際に罹患している人の比率(X)は0.999/10.998=0.0908、つまり9.08%となる。
これをドラマでは「約10%」と言ったわけだ。
 
さてこれを一般式にしてみようか。
罹患(病気)比率:a
検査の精度:b
とすると、X=ab/(1-(a+b)+2ab)となる。
 
式の組み立ては自分でやってみてください。 
さて、この一般式を使って検査精度が99.9%の場合に、実際の罹患比率(a)が100%から0.001%まで変化した時の「陽性と出た人数のうち、実際に罹患している人の比率(X)」の変化をグラフにしたのが以下の図だ(縦軸は対数メモリ)。 
 
罹患比率が1%を下回るあたりから、急速に「陽性と出た人数のうち、実際に罹患している人の比率(X)」が低下するのがわかる。 これはある意味で当然のことで、要するに非常に確率的に低い事象(ここでは病気)を発見するためには、その低い確率に見合って検査の精度が上昇しないと誤差が拡大する、つまり「陽性と出た人数のうち、実際に罹患している人の比率(X)」が急激に低下するということを意味している。
 
ありていに言えば、小さなミクロの現象を見るには顕微鏡で見ないとわからないと言っているのと本質的には同じことを言っていることになるね。
 
さて、以上のことの人間の認知能力上の含意だが・・・・本日はここまでにして、次回に回しましょう。
 
http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakamasaharu/  Yahooニュース個人
イメージ 1
 
イメージ 2