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今回はunit labor cost(単位労働コスト)の概念と消費者物価指数との高い相関関係が切り口です。
一部抜粋引用
「米国株式が高値更新を続ける一方で、経済学者の間では「米国経済の長期的停滞」の可能性を懸念する議論が関心を呼んできた。その代表は元米財務長官のローレンス・サマーズ氏が11月8日に国際通貨基金(IMF)の会合で行った講演だ。内外のエコノミストらの間で話題となったので、ご存じの方も少なくないだろう。
講演内容を一言で要約すると、リーマンショック以降、短期金利をゼロ近傍まで下げ、かつてない量的な金融緩和政策(非伝統的金融政策)で実質金利がマイナスになる状態を09年以降続けているのに雇用の回復が遅く、インフレ高進の気配すらないのはなぜかという問題提起だ。
そうした状況を説明するひとつの仮説として、「自然均衡利子率が大幅なマイナス水準に落ち込んでいる状況を考えてみよう」と同氏は語っている・・・・
・・・CPIとの高い相関性を踏まえて考えると、以上のULC(unit labor cost)の推移は次の3点を示唆している。第1にULCの推移を見る限り、米国が慢性デフレになるリスクは当面は低そうだ。その結果、自然均衡利子率の大幅マイナスというシナリオもとりあえず杞憂に終わるだろう。
第2点として「杞憂に終わる」という判断は短期か中期のことであって、長期ではサマーズ氏が指摘したリスクを米国経済は抱えている。米国の労働分配率は90年代の平均値65.8%から2000年―13年の63.4%まで趨勢的に低下し、13年第3四半期では61.0%まで下がっている。
労働分配率は景気回復過程では低下し、景気後退期には上昇する。したがって、現下の低さには景気回復と企業収益の改善を反映した短期・中期的な面もある。しかし、ULCの趨勢的な低下がこのまま続けば、ディスインフレからデフレへと転じる危険性を高めるだろう。
資本分配率の上昇を伴った企業収益の伸びで株価が高値更新を続ける一方で、ミドルクラスを中心に賃金は上がらず、労働分配率は低下しているのだ。この傾向が続けば、いずれまた到来する景気後退期にインフレ率の底がさらに下がり、サマーズ氏が懸念したような自然均衡利子率が大幅なマイナスに落ち込むシナリオへの道を開いてしまう危険性が高まる。
第3に日本はまだULCの変化が前年同期比でマイナスであり、デフレ脱却、マイルドインフレ達成のためには賃金上昇が欠かせない。各種賃金動向を見る限り、その兆しは見られるが、それが明確な変化になるかどうかの見極めには、最低あと数カ月はかかるだろう。
不幸にして「賃金上昇、国内物価上昇、賃金上昇」の連鎖が始動しなかった場合には、目標とされるマイルドインフレ期待の後退によって「円売り持高の巻き戻し、円高への急激な揺り戻し」が起こり得る。このシナリオも杞憂に終わって欲しいが、そうなるかどうかはまだわからない。」
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近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日