本日日曜日の日本経済新聞に、米国のリベラル派を代表するロバート・ライシュ氏と、保守派を代表するマーチン・フェルドシュタイン氏の、インタビュー記事が掲載されていた。
米国経済の現状と望ましい政策については、両氏の見解は、従来からある左と右の対立であり、目新しくないのだが、米国株価に関する現状認識については見解が一致しており、私の目を引いた。
ロバート・ライシュ:「「企業は消費増を期待できないので最大のコストである従業員の数を削って利益を伸ばした。研究開発費を減らし自社株買いで1株あたり利益を膨らませる動きも目立つ。長い目でみれば企業や経済の自滅につながる。いまの株価も長期では正当化できない。相場は大きく調整し得る」
マーチン・フェルドシュタイン:「「昨夏の長期金利の急上昇が株価にそれほど響かなかったのには驚いた。株価は昨年3割も上げたが、企業の利益は1割も増えていない。だから株価上昇の要因の少なくとも3分の2は緩和マネーか、人々が強気になりすぎたせいと言える。バブルだという人もいるだろう。今後、下がる余地は十分にある」
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「米国の株価は、もう高過ぎる」という警戒論は昨年から様々な人によって繰り返されているのだが、株価はそうした警戒論をあざ笑うかのごとく高値を更新してきた。
かく言う私も、昨年9月のトムソン・ロイター社のコラムで以下のように書いている。
「米国経済の中長期的な先行きについては楽観的な見通しを引き続き抱いているが、株式相場は長期的には実体経済の動向を反映しながらも、短期・中期では期待や不安先行で上にも下にも行き過ぎるのが常だ。8月までの株価上昇を受けた米国株の動向については、来年にかけてやや警戒的なスタンスで臨む方が良いと思う。」
また、今年の3月にワカバヤシFXの後援会に講師としてお招き頂いた際に拝聴した若林英四氏も、チャート分析の視点で「米株はもう高すぎる。大反落必至」と「予言」されていた。
(ただし私はチャート無信心者ですので、念のため)
高過ぎるというこれだけの警戒論にもかかわらず、相場が上がり続けているというのは、上げ相場が大衆化しているということだろう。しかしいつの局面でも、上がり過ぎた相場が下げに転じる水準、タイミングを事前に予測することは困難だ(不可能だというべきか)。
グリーンスパン元FRB議長も、株価の上昇が行き過ぎていると感じて、1996年12月に恐る恐る「根拠なき熱狂」と言ってみたが、株価は一時その言葉に反応して下がったものの、その後は2000年春まで猛烈に上がり続けた。 その間、ITブームの熱狂にグリーンスパン氏自身が感染してしまったのか、「今起こっていることは100年に一度の(素晴らしい)ことかもしれない」と見解は反転させてしまった。
何度も紹介しているShiller PERは、割高圏のめど25倍を超えているが、2000年代だって25を超えた時期は2003年から07年まで4~5年も続いたのだ。ちなみにシラー博士自身、90年代前半にはこのShiller PERが20を超えた時に、「もう株価は高すぎる。バブルだ」と説いて大はずれしている(「ランダムウォーカー」の著者マルキール氏はこのことを意地悪く覚えていて、著書に書いている)
確かに90年代前半の時点でShiller PERを見ると、20倍超えというのは明らかな高値警戒レンジに見える。この辺に過去の事実から将来を予測することの限界を感じるね。
まあ、大衆化した相場のトレンドとは、警戒論やベアな投資方針でやって来た方々が、辛抱たまらなくなって、見解やショート・ポジションをひっくり返すまで高騰しないと、反落場面はなかなか到来しない。皮肉なものだが、これがひとつの微かな手掛かりでもある。
つまり、「オオカミが来る」という警告を、ほとんどの人が信用しなくなった時にオオカミはやって来るってことだね。 さらにオオカミの到来と、ブラックスワンのご降臨が重なると、大変なことになる。それが2008年の出来事だったというわけだ。 大手新聞の一面で有名な識者が「もう高すぎる」と語っているうちは、まだ大反落は来ないのかもしれない。
近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日
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