今日(4月24日)はなぜか、長期のポートフォリオ構成、特に長期債券と株式などリスク性資産の比率を考える材料になる記事が目につくので、記事を紹介しながらコメントしよう。引用文は青字、コメントは黒字。
 
まず生保の運用動向に関するロイター記事
国内生損保の「安全志向」変わらず、リスク資産シフトは一部
引用:「1980年代後半のバブル全盛期、国内生保全体の株式保有比率は20%程度だったのに対し、国債は4─6%に過ぎなかった。2012年度では株式は4.8%に低下する一方、国債は43.1%にまで膨らんでいる。」
 
この何気ない一文は過去25年間の生保のポートフォリオが、いかにはずれていたか、はっきり言って「逆指標」だったことを物語っている。
景気が過熱し、バブルが株式と不動産バブルのピーク前後だった89-90年頃には、利回りの上がった(価格の下がった)債券の比率を上げ、株式の比率を下げるのが合理的だったのだが、それと逆の状態にあったわけだからね。 もちろん後からそのように言うことは簡単であることも承知している。
 
過去の事はともかく、今の問題は国債43%、株式4.8%という80年代後半とは真逆のポートフォリオが今後20年間妥当かどうかだ。記事を書いた記者君は、タイトルに示されたように生保は現在の内訳を大きく変えようとはしていないと判断している。
 
もし今後、デフレの終焉、インフレ(その程度はともかく)時代に移行するなら、上記のポートフォリオは再び長期にわたる最不適ポートフォリオとなる。
 
日経新聞は次のような記事を掲載している。
明治安田生命、長期金利急騰に備え 国債の管理強化
引用:「明治安田生命保険は23日、大量に保有する日本国債の価格が下がって長期金利が急騰する事態に備えて国債のリスク管理を強める方針を明らかにした。4月から、市場や経済・財政の34の指標を毎月点検し、金利急騰の予兆が見られる場合は早期に日本国債を売却する体制を整えた。」
 
一見もっともらしい判断であるが、おいおい、本気か?マジか?と言いたい。
今でも横並び意識の強い日本の生保、長期国債価格下落(利回り上昇)リスクを回避するために皆さんが一斉に売り出したら、国債は自己実現的に急落・暴落するだろう。
 
1985年のプラザ合意の後、86-87年のドル急落はそれまでドル債投資の最大手だった生保が、一転してドル円相場で「ドルヘッジ売り」にラッシュした結果でもあるんだからね。それと似たようなことが長期国債で起こるということだ。その兆候が出てきたら抜け目ないヘッジファンドなども先回りして国債の売り(空売り、先物売り)に出るだろう。
 
だから「長期金利が急騰する兆しが出てきたら、売りに出る」なんて投資戦略は、ミニ投資家なら使えるが、需給の大きな部分を占めるメガセクターのプレーヤーには事実上使えない手なんだ。
 
ではどうしたら良いのか? 相場の安定している今のうちからポートフォリオの内訳を変えておくしかないだろう。
 
最後の記事は日経新聞経済教室、伊藤隆敏先生の論考。
債券減らし、分散投資急げ (下図参照)
「日銀の量的・質的緩和導入から1年、インフレ率は0%近傍から1.3%へと高まってきたが、長期国債の名目金利の水準は0.6%辺りで安定している。日銀が予測するように、来年度にかけてインフレ率が目標の2%に近づき、期待インフレ率が2%近辺で安定すれば、長期金利は3%以上に上昇(国債価格は下落)するであろう。
 
厚生年金と国民年金の積立金の資産運用を委託されているGPIFでは、いまだに運用資産の約55%を国内債(多くは長期国債)で保有している。これは厚生労働相から指示されている「基本ポートフォリオ」で国内債の比率が60プラスマイナス8%、と決められているからだ。国債金利が今後上昇すると、大きな評価損を出すことが確実だ。
 
報告への批判もあるが、誤解に基づくものが多い。第一は、「国債は安全、株はリスク」という神話を背景にした「なぜ年金生活者をリスクにさらすのか」という批判である。しかし、前述のように長期国債には金利変動リスクが伴う。重要なのは分散投資と資産・負債の性格をよく考えたバランスのとれた資産管理手法の導入である。」
 
私は概ね伊藤先生の主張に賛成だ。
それは将来のインフレの可能性を踏まえたポートフォリオの適正化というだけではなく、以前ブログに書いた通り、公的年金を自国の国債で運用しても大きく拡大した世代間不公平を縮める役にはたたないからだ。
「公的年金の資金を自国国債で運用してもカラの金庫に過ぎない 」↓
 
ただし伊藤先生が次のように書いているのは、筆がすべったせいでしょうか(^_^;)
「株の保有リスクは短期的な価格変動を考えると高いようにみえる。しかし、10年以上の長期保有の場合は国債金利を上回るリターンを期待できる」
 
これは80年代までの日本や米国をはじめマイルドインフレの経済で成り立っている市場法則だが、日本では90年以降今に至るまで24年間には成り立っていない。それは弊著「稼ぐ経済学」でも強調した事実だ。 その原因は実証的に解明されているとは言えないが、おそらく頑固性便秘ように凝り固まったデフレ期待だろう。
 
そのデフレ期待がついに終焉する局面が今後到来する・・・と想定する限り、公的年金に限らず債券偏重のポートフォリオは見直し必至だ。
 
ただしひとつ懸念も言うと、GPIFという官僚組織が市場の変化に間に合う形でポートフォリオの組み替えを実現できるかどうか。おそらく伊藤先生もその点は心配されているはずだ。「先々を展望してリスク判断を行う」という作業は官僚組織が最も苦手な仕事だからね。 生保同様に巨大な「逆指標」になってしまう可能性もある。
 
で、私自身のポートフォリオは?  ははは、既に超・インフレ耐性型です。どんなインフレも怖くない。
もっとも株は昨年来比重を落としていますがね。日本の不動産市場でバブル期待型のポートフォリオです。 願わくば、ゆっくりバブッて、長く楽しませて欲しい(^_^;)