昨年12月末から今年年初にかけて3.0%前後まで上昇した米国の10年物国債利回りは、その後2.4%台まで低下、現在は2.6%前後で推移している。この米国の長期金利の低下をしきりと不思議がり、米国経済の長期的な衰退の兆候ではないかなどという議論が、この春以来一部の市場関係者やアナリストの間で繰り返されている。 
 
しかし私には不思議でもなんでもない。極めて自然なことで、むしろあのまま3.0%を越えてするすると長期金利が上昇したとすれば、その方がよっぽど異常か特異なことと言うべきだろう。 その理由をご説明しよう。
 
まず米国の長期金利に関するその種の言説をいくつか引用、確認しておこう。
米国の長期金利が低下傾向で推移している。足元の米景気は堅調に展開、株価も上昇し、米連邦準備理事会(FRB)は量的緩和を縮小と、金利上昇要因の“三銃士のそろい踏み”にもかかわらずだ。この謎を考えるうえでは、長期的かつ構造的な観点から検討することも意味があろう・・・・その意味を考えれば、米国経済の長期的な成長力に対する疑念が生じていたからと推察できる。
    出典:日本経済新聞6月13日夕刊コラム「十字路」馬渕治好氏
米長期金利(10年国債利回り)が低下、15日の米国市場では2.49%と2.5%を割り込んだ。2月につけた年初来の最低水準(2.58%)を下回った。米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和の縮小を続け、雇用状況が改善するなかでの低下は「異常現象」・・・・ 「FRBが想定しているほどには米景気は強くないと市場はみている。そのギャップが長期金利に表れている」。野村証券チーフ金利ストラテジストの松沢中氏は話す。
    出典:日本経済新聞5月16日電子版 土屋直也氏
わたくしは大きな構造が変化しているのではないかと考えている。その「地殻構造の変化」の兆しを端的に示しているのが、米長期金利の動向だ。10年米長期国債利回り は28日の取引終盤に2.43%台と約11カ月ぶりの低水準となった。 米株が最高値圏で推移しているのに、米国債に資金が入り続けるのは、教科書的には「首をかしげる」現象だ。ましてFRBのテーパーリングが粛々と進む中での米長期金利の低下は、CONUMDRUM(謎)と言えるだろう・・・・この謎を解くカギとして、米国内で浮上しているのが「潜在成長率低下」仮説だ。
 
長期金利の推移は当然ながら米国の景気循環と金融政策を反映する。
 
まず景気の状況はGDPギャップ(マクロ的な総供給と総需要のギャップ、マイナスが需要不足、供給力超過)で示すことができる。IMFの推計によると2014年の米国のGDPギャップは-3.3%であり、次第にマイナス幅が縮小してきているが、1980年以来の平均値-1.9%よりもマイナス値がまだ少し大きい。これはリーマンショック後の不況による需要減少が非常に大きかったことの結果だ。
(IMF World Economic Outlook Database 2014 April)
 
次に長期金利は予想される短期金利の将来にわたる累積結果と同じ水準になるように決まるのが原理だ。つまり10年物長期金利と3カ月物金利ならば、将来10年にわたって3カ月物で資金運用(あるいは調達)した場合の予想累積利息と、10年物金利での累積利息が等価になるように決まる(信用リスクなどが同一であることが前提)。
 
現在は短期金利がFRBの非伝統的金融(量的金融緩和)政策で0~0.25%に低く抑えられているが、将来は金利引き上げが行なわれると予想されているので、長期金利>短期金利であり、長短金利差
(yield spread)はプラスである。逆の状態(逆イールド)は景気が過熱しているような場合に限って生じる。
 
以上を念頭に、GDPギャップと長短金利差(10年物財務省証券利回り-3カ月物TB利回り)の相関関係を示したのが、掲載図だ。両者の間には有意な(関係性が偶然ではない)負の相関関係が見られ、相関係数(R)は-0.68、決定係数(R2)は0.47である。これは長短金利差の47%はGDPギャップで説明できることを意味する。
 
IMFが推計した2014年の米国のGDPギャップは-3.3%であり、上記の関係性を前提にすると対応する長短金利差は2.35%となる(図表の近似線方程式に-3.3%を代入して計算する)。現状の3カ月物TB利回りは0.1%前後なので、10年物財務省証券利回りの推計値は2.45%となる。
 
もっとも当然バラツキのある関係であり、推計値からプラスマイナス0.5%程度の幅をもって受けとめるべきである。そうすると10年物財務省証券の利回りの中心レンジは、2%~3%が90年以降のデータの関係性を前提にする限り現状の自然な水準だということになる。
 
すなわち、昨年末から今年年初にかけての10年物財務省証券利回り3.0%前後と言う水準は、今年のGDPギャップと短期金利を前提に予想されるほぼ上限だ。利回り3.0%をつけた時でも、FRBの量的金融緩和が終了するのは今年の後半であり、実際に金利が引き上げになるのは来年の半ば頃と予想されていたはずだ。それを前提に考える限り、今年の10年物財務証券利回りが、3%を越えてするすると上昇したとすれば、その方がよっぽど「異常」「謎」として受けとめるべきことなのだ。
 
それではなぜ年末年初にそこまで長期金利は上昇したのか? それは2013年に米国の市場参加者を中心に語られたグレート・ローテーション相場(国債などの安全資産から株式などリスク性資産へのポートフォリオ・シフト)で、2014年もさらにひと儲けしようと動いたヘッジファンドなど投機的なプレーヤーが長期財務省証券を積極的に売り込んだからに他ならない。そしてその思惑が外れて損切りに追い込まれるプレーヤーの買い戻しで10年物財務省証券の価格は上昇、利回りは2.4%近辺まで押し戻されたということに過ぎない。
 
米国の景気が回復過程にあり、量的金融緩和の段階的縮小が進んでいるからと言って、長期金利が必ずしも一方向にするすると上がるとは限らない。そもそも長期金利に限らず全ての相場は将来の変化を先取りしようとするプレーヤーの思惑で短期的にオーバーシュート(行き過ぎ)したり、後戻りしたりしながらジグザグに進むものだ。今年の春の長期金利の軟化もそうしたポジション調整によるジグザクな動きのひとこまに過ぎない。 
 
最後に来年の予想をしておこうか。IMFが推計する来年2015年のGDPギャップは-2.2%であり、これは1980年以来の平均値である-1.9%にほぼ近い。これを前提にすると、来年の長短金利差の推計値は2.0%となる。現時点でFed Fund Rateの2015年12月期日の先物が予想するFFレートは0.735%だから、来年12月の10年物財務省証券利回りの現時点の推計値は2.74%となる(FFレートと3カ月物TBの利回りがほぼ同じ想定)。やはりプラスマイナス0.5%程度の幅をもって考えると、予想レンジは2.24%~3.24%となる。
 
米国経済の先行きとインフレ率について、市場平均予想よりもやや強気の見方をしている私としては、多少予想レンジを上方にシフトさせて、2.5~3.5%程度を来年の10年物財務証券利回りの中心レンジと予想しておこうか。
 
追記(6月16日):ブログのリピーターの方々のためにご参考までに
S&P500連動のmutual fund、米国のメリルリンチ口座で保有している分ですが、これは中核ポジションとして高値更新でも売らずに為替リスクのみヘッジする方針で来ましたが、さすがに昨今のS&P500の1900台での高値更新で、反落リスクが怖くなってきました。
 
しかしこの口座はプライベートバンキングなので売買手数料が高いんですよね。できるだけ売買せずにずうっと持っていたい。
そこで東証のETFでNNNYダウベアETNを買って少しヘッジすることにしました。
これはダウ先物売りを倍率1で組み込んだETN(野村証券)です。
S&P500連動の同様のベア物はなかったのですが、双方の指数の相関係数は0.9を越えているから、これで良いでしょう。
 
ヘッジ率はまだ10%程度ですが、ちびちびと分割して購入して、目先30%程度まで上げていく方針、中規模以上の米株反落があったら(高値から10%以上の下落)ETNを買い戻してヘッジ益を実現するつもりです。
 
NNNYダウベアETNについては以下ご参照↓