日銀黒田総裁のイニシアチブによる追加の量的金融緩和政策で円安、株高が一段と進んだが、不安の種もはらんでいる。
円高&株安が逆転して、円高修正、円安と株価の上昇が同時に進行するのはもちろんこれが初めてではない。大きな局面としては1995年に1ドル=80円まで進んだ円高が反転して円高修正、円安になった1995年から96年の局面があった。(下図参照)
この時、円高反転の「音頭取り」は大蔵省の榊原国金局長だった。ヘッジファンドなどまで焚き付けて円売りの動きを作ることに成功した。 株価も反転上昇した。
しかしヘッジファンドら投機筋との蜜月が続いたのは1996年年央までのことだった。円売りで儲けたソロスをはじめとするマクロ系ヘッジファンドは、タイバーツやマレーシア・リンギットなどでドルショート持高(ドル借入、現地通貨転換)が莫大に積み上がっていたことに着目して、これら通貨の売りを仕掛けた。
それが劇的に成功してしまい、97年からこれら通貨は下落を始め、とうとう同年7月にタイ政府は自国通貨買いの介入を諦め(外貨準備が底をつき始めたのだ)バーツ暴落となった。 マレーシア・リンギットやインドネシア・ルピーも同様の暴落となった。
日本では当時銀行が莫大な未処理不良債権という爆弾を抱えていたので、アジア通貨危機は日本にも波及し、97年以降は円売り、日本株売りの展開になってしまった。
今回の局面も、アベノミクスの当初からだけでなく、追加金融緩和の10月31日以降の局面でもマクロ系ヘッジファンドなどが円売り、日本株買いで大きく動いているそうだ。
11月6日付の日本経済新聞は市場関係者への取材に基づいて次の様に書いている。
引用:「真っ先に動いたのが、マクロ指標や金融政策を見て動くグローバルマクロ系のヘッジファンドだ。彼らの一角は緩和を予想していたのか、フライング気味に動いていたようだ。
「何だこの大量買いは」。証券各社のトレーダーたちがいぶかったのは10月31日の寄り付き直後のことだった。海外ファンドとみられる投資家が、ある米系証券を通じて1万6250円の日経平均コールオプション(買う権利)に約6800枚の買い注文を業者間市場で出した。想定元本で1千億円に相当する大口買いだ。
他の証券会社は一斉に売り向かったが、数時間後の日銀の追加緩和発表にひっくり返った。「やられた、すぐ先物を買え」。コール売りのリスクを減らすための証券会社の先物買いが、相場上昇に拍車をかけた。」
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11月6日本日もニュースもない中で突然、日経平均先物が大量に売られて急落する場面があった。大方ヘッジファンドなどから大口の利食い売りでも出たのだろう。
安倍政権と日銀黒田総裁の下で円高修正と日本株価回復が実現したのは、円売り・株買いの政策的な材料をヘッジファンドなどを含む海外の投資家層に与えることに成功したからだ。 私はそれ自体、市場参加者の望ましい期待転換を果たしたものとして評価しているが、同時に97-98年のような状況に将来転換してしまうリスクもはらんでいると思う。
今回局面では銀行の不良債権問題などはない。日本では株も不動産もまだバブル的な状況は見当たらないと思う。では何が、リスクの種だろうか? やはり膨張した政府債務問題と国債かなと思う。
この点でアンチ・リフレ派の論者には「日銀は蟻地獄にはまった蟻のように永遠に国債買いからEXITできない」と言っている方と、「インフレになった時に国債保有で大きな損失を抱える」と言っている方がいる。双方は両立しないから、双方とも主張している方はいないだろうと思うが・・・(^_^;)
「永遠に量的緩和から抜け出せない」というのが本当なら、私にはそれはリスクには思えない。日銀が900兆円に及ぶ国債を全部買い尽くしても、マイルドインフレにならないなら、インフレ目標は未達におわる。しかし政府債務問題は事実上解消してしまうことになる。日銀は組織的には政府から独立しているが、機能的には政府部門の一部だからだ。
問題はやはりインフレ目標が達成された時のEXIT局面のリスクだ。 過去繰り返し日本国債売りを仕掛けて失敗し、損切り・撤退してきたヘッジファンドなどが、ここぞとばかりに日本国債売りを仕掛けてこないだろうか。その時に、円売り、日本国債売り、日本株売りというトリプル安になるリスクはないだろうか。まあ、そうならないことを祈りつつ、リスクシナリオとしては頭に入れておこう。
量的金融緩和のEXITリスクについては以下のロイター論考をご参照。