国民総資産が9000兆円を超えた!?
以下のNHKの記事が目にとまった。
「国民資産が初の9000兆円超、株高で」
引用:「内閣府が取りまとめた日本経済の決算書にあたる「国民経済計算」によりますと、おととし・平成25年末時点の「国民資産」は、前の年より7.2%増えて9294兆6000億円となり、今の基準で統計を取り始めた平成6年以降初めて9000兆円を超え、過去最高となりました。」
NHKともあろうものが、こういうミスリーディングな報道をするとはね・・・やはりNHKには経済問題がわかっているスタッフがあまりいないのかもしれない。
AがBに1億円貸して、BがAに1億円貸しているとする。上記の9000兆円という数字は、Aの資産(貸金)1億円、Bの資産(貸金)1億円、合わせてグロスでは2億円の資産があると言っているに過ぎない。
誰かの金融資産は別の誰かの負債であるから、国内での金融資産・負債は相殺してゼロになる。一国にとって意味があるのは、相殺されることのない非金融資産(主に土地と建物・設備など)と対外的な純資産(対外資産ー対外負債)だけだ。
内閣府のデータでは、非金融資産は2723兆円、対外純資産は325兆円、合計3048兆円が国民純資産(国富)だ。 金融資産・負債をネットアウトする前のグロス金融資産は国富としては意味がない。
だから内閣府のデータも総資産から総負債を引いた「正味資産(純資産)」の欄に「国富」と記載しているのに、オリジナルデータをきちんと見て記事を書いていないから、こういうヘンテコな記事になるのだろう。
内閣府のデータは以下のサイト、ストック編、統合勘定をご参照。
以下の掲載図は、内閣府の公表データで資産・負債・純資産の推移を示したものだ。
国民純資産は、2008年に比べて97兆円減少している(-_-;)。
この分野(国民経済計算)は私は専門ではないが、わかる範囲で少し解説しておこう。
「一国が経済的に豊かになる」ということは、フローデータでは1年間の供給・消費される付加価値の総額としてGDP(あるいは国民総所得としてGNI)が増えることを意味する。 ストックデータでは総資産-総負債としての純資産(国富)が増えることが、一国が経済的に豊かになることの統計データ上の表現になる。
2013年末の非金融資産2723兆円の内訳は、生産資産1601兆円と有形非生産資産1122兆円だ。前者は様々な財やサービスを供給するための企業などの土地、建物、装備などが主だ。 後者の代表的な部分は住宅資産だろう。
どのような場合に純資産(国富)が増えるのか? 株価が上がると国富は増えるか?
内閣府データを見て頂くとわかると思うが、株価総額(時価)は資産サイドと負債サイドの両方にある。もし一国の株式が国内だけで保有され、海外と保有関係がなければ、両サイドの数字は同額で相殺されるので、株価が上がっても純資産は増えない。
しかし2013年の資産サイド株価は666兆円、負債サイド株価は879兆円で同額ではない。これは日本と海外との間で株式の保有関係が相互にあるからだ。
純資産(国富)が増えるのは、例えば以下のような場合だ。
①住宅の建設⇒有形非生産資産の増加
②企業の設備投資⇒有形生産資産の増加
③経常収支黒字の発生⇒対外純資産(対外資産-対外負債)の増加
政府が赤字国債を発行して、それで得た資金を国民に給付し、消費しているだけの状態では上記の①②③は全く生じないから、国富は増えない。 企業がもっと将来の生産や新商品の供給が増えるための広義の設備投資(有形・無形の固定資本形成)が増えることが決定的に必要ということだ。
近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日
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