新年早々縁起の良くないテーマで恐縮だが、どうも2016年の出だし、私は世界の投資環境についてあまり楽観的な気分になれない。

実際、トムソン・ロイターのコラムでも昨年秋から暮れにかけて書いたのは、以下の通りリスクシナリオである。

先行きに「きな臭さ」を感じる理由は、上記の2つ論考に書いたことだけではない。もうひとつ書いておこう。米国の社債市場におけるリスク・スレプレッドの拡大が「準危機」レベルになっているのだ。

昨年12月中旬、米国のハイ・イ-ルド・ボンド(ジャンク・ボンド)に投資して来たThird Avenue fundが、損失の拡大と解約殺到で清算に追い込まれ、ジャンク・ボンド市場でリスク・スプレッドが拡大していることは市場関係者ならみなご存知のニュースだろう。(以下バロンズとWSJ記事参照)

バロンズ日本語訳記事:
WSJ英語版記事:

ジャンクボンドに限らず、債券市場全体のリスクスプレッドが拡大している。VIX指数と並んで投資家のリスクオフ、リスクオン状態を表す指標として私が継続的にフォローしているものに、FRBが公表しているAaa格付けとBaa格付けの社債の利回りスプレッド(リスク・スプレッド)がある。

1980年以降の推移が以下の掲載図だ。黄色線はBaa格付け利回りからAaa格付け利回りを引いたスプレッドである。 例えばBaa 3%、Aaa 2%なら、リスク・スプレッド1%となる。 これを「差分ベース」と呼ぼう。 しかし、今のような10年物米国債利回りが2%前半の超低金利の1%と、金利がもっと高かった時、例えば80年代前半のように10%を超えていた時の1%では程度が違うだろう。

そこで、(Baa利回り-Aaa利回り)/Aaa利回りという計算で、リスク・スプレッドのAaa利回りに対する比率にして表示したものが赤色線だ。 これを「比率ベース」と呼ぼう。

どちらのベースで見ても、2015年12月末のリスク・スプレッドは、もちろんリーマンショック前後の水準よりはずっと低いが、2011年から12年にかけての欧州債務危機の水準と同じか、それを若干上回っている。

また、2007年夏にパリバ銀行の関係ヘッジファンドが解約停止に追い込まれ(事実上の破綻)、「サブプライム危機」が露になった時のスプレッドは、差分ベースで0.88ポイント、比率ベースで15.2%だ(2007年7-9月平均)。一方、昨年12月末時点は差分ベース1.51ポイント、比率ベースで37.5%だ。 ほぼ倍のリスクスプレッドなのだ。

ジャンクボンド市場の大きな値崩れの原因は何か?私は債券市場の事情にはそれほど詳しくないのだが、大括りに推測するに、2008年以降の超低金利時代にインカム・リターン(利息・配当リターン)の大幅低下に悩まされたインカム志向の投資家が、少しでも高い利回りを求めてジャンクボンドを含む格付けの低い債券を買い漁った。その結果、割高になった(利回りが低くなりすぎた)低格付け債券価格の調整(利回りの上昇)が、ドルのゼロ金利の終焉とともに大きな規模で起こっているのだと思う。

実体経済面では、米国経済が景気後退に移行する兆候は見られない。日本経済についても、賃金の上昇率が抑制されているため、力強さはないが、2016年中に本格的な景気後退になる可能性は低い。ユーロ圏も小康状態。 やはり世界経済の目下のリスクは上記掲載のロイターコラムで書いた通り、新興国経済だろう。 それと、米国のS&P500で見ると、一株当たり収益率が2014年9月をピークに頭打ちになっている点も注意しておこう。(以下サイト参照)

日米欧を中心に先進国経済は穏かな景気回復継続、新興国経済は赤信号、投資家心理全般は黄色信号、目先の日米株価は上下動を伴いながらも大局で横ばいと予想しておこう。新しい投資のチャンスとしては、原油先物を組み込んだETFをタイミングを見計らって買ってみたいと思うが、原油価格の底打ち反転はまだ先かな。

追記(1月7日):今日facebookで書いたことですが、ブログでも追記しておきます。

昨年まで「売れ筋」と言われていた新興国通貨相場リスクとハイイールド・ボンド(ジャンクボンド)を組み込んだ投資信託がどのくらいの残高があるのか気になっていました。
金融庁の「金融モニタリングレポート」に記載されていることがわかりました(下段掲載図)。
大半が新興国高金利通貨を選択していると思われる「通貨選択型」が約11兆円、ハイイールドボンド(ジャンクボンド)対象が5.3兆円、通貨銘柄で多いのはオーストラリアドル、ブラジルレアル、トルコリラですね(2015年3月時点)。
いずれも昨年半ばから下げが急になり、ただ今も続落中です。
大当たりですね。
レポートサイトは以下です↓
http://www.fsa.go.jp/news/27/20150703-2.html

追記(1月9日):日本経済新聞記事から
引用:「 米利上げの影響も重なる。利回りを求めて新興国の債券に流入していた投資マネーが米国に回帰し始め、国債だけでなく、社債市場にも変調の兆しがある。

『低格付け債の利回りは魅力だったが、下落リスクが大きくなった。手が出せない』。大手生命保険の海外投資担当者は資金を格付けの高い米国社債に移している。信用力の低い企業は米利上げや原油安などでリスクが増していると判断した。バークレイズ証券によれば、米国で格付けがダブルB格など投機的水準にある社債の国債に対する上乗せ金利は、ここ1カ月で大きく上昇した。」

追記(1月11日):これも典型的なリスクオフ現象、WSJの1月10日付記事から
U.S. public pension plans and mutual funds are sheltering more of their holdings in cash than
they have in years, a sign of growing stress in financial markets.


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