どうも金融に詳しくない方々は、次の様に考えているようだ。
すなわち、日銀が銀行から国債を買ってマネーを供給しているのに、銀行が貸出を伸ばさないから、マネーは民間銀行の日銀当座預金に積み上がるばかりだ、と。
逆に言うと、貸出が伸びれば、銀行の日銀当座預金残高はその分減る、と考えているのだろう。
しかしこれは全くの勘違いだ。
「えっ、どうして!? 貸出が増えると銀行の資産の内訳が、日銀当座預金から融資に換わるのではないの?」
いいえ、間違いだ。
例えば私が銀行から住宅ローンを5000万円借りると、銀行の資産サイドに住宅ローン5000万円がたつ。同時に銀行の負債サイドにある私の普通預金に5000万入金される。 銀行の貸出と預金は両建てで5000万円増える。私が受け取った住宅ローン5000万円は、支払いで住宅の売り手の預金口座に移るが、銀行部門全体の預金としてそのまま残る。
以上の金融取引は、銀行部門全体の日銀当座預金残高に何の変化ももたらさない。
以下の対談の渋澤氏のコメントは、その点でミスリーディングだろう。もしかしたら、ご本人も勘違いしているのかもしれない。
補足すると、ゼロ金利・量的金融緩和以前の金利があった時代には、民間銀行は預金残高の一定比率を準備預金として日銀当座預金(当時は付利ゼロ)に維持しなくてはならなかった。付利ゼロだから、銀行は必要最小限の準備預金しか置かずに、あとは貸出、マネーマーケット(資金放出)、債券などで運用した。
そうした状況の下では、日銀は民間銀行との資金取引で、銀行間のマネーマーケットに需給的な影響を与えることで、マネーマーケットの短期金利(コール取引金利)を上げたり、下げたりし、そのことを通じて貸出の伸びに影響を与えることができた。
しかしゼロ金利・量的金融緩和に移行してからは、①時間軸効果(金融緩和が長い期間続くぞと思わせること)で国債などの長期金利に影響を与える、②ポートフォリオバランス効果、日銀が国債を大規模に買うことで民間のポートフォリオ構成が変わり、代替として他の金融資産の購入が増え、対象となった金融資産の利率(リターン)も低下する、③「インフレ期待」に影響を与えることで実質金利(=名目金利-期待インフレ率)に影響を与えることなど、短期金利の水準変動以外の効果に依存することになる。
東洋経済オンライン「要は必要以上に現金を持つなということだ」2月14日
「渋澤健:よく考えてみて下さい。余っているおカネに対して0.1%の金利を付けているのですよ。預金が年0.02%の利息だったとしても、この当座預金に預けるだけで、差し引きで0.08%の利ザヤを抜くことが出来るのですから、4行で755億円の利益という単純計算になります。
いくら日銀が量的金融緩和をせっせと行ったとしても、銀行が経済を活性化させるために、そのおカネをどんどん社会に回そうなどとするはずがない。当座預金に放り込んでおしまいです。」
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近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日