気がついたら、金融・投資の世界はロボット(AI)だらけ!
人口知能が金融を支配する日」櫻井豊、東洋経済新報社、2016年8月

この本は日本の金融・投資に関わる全ての方々に読んで欲しい。
アマゾンでの発売日は8月19日だが、東京駅丸の内北口のオアゾ内丸善では5日から店の正面の大きな面積を平積みで占有していた。買って開いてほとんど一気に読みとおした。感銘を受けた。

Deep Learning技術により飛躍的な進歩局面に入った人口知能(AI)が、ビックデータの活用と相まって、金融・投資の世界をどれほど劇的に変革しつつあるかを平易に説いている。そしてその最先端を走るのはやはり米国であり、日本の金融・投資業界は悲しいほど遅れている。

実際、株式、債券、為替など主要な金融市場の売買はAIをバックにした超高速アルゴリズム・トレーディングに席捲されており、この分野の日本の金融機関の対応は悲しいほど遅れている(1章)。

2章では、ヘッジファンド業界では人工知能の実践的な活用のために莫大な投資がブームになっており、投資技術開発の熾烈な競争が展開している状況が語られている。ほとんどの一般の日本人には知られていない状況だ。

3章ではAIをベースにしたロボット投資アドバイザーが、米国では急速に普及し始めたことが語られている。その波は間違いなく日本にも押し寄せようとしている。

あとの章は省略するが、数理系人材として東京銀行でクオンツとして各種デリバティブの開発、運用に携わり、2000年にソニー銀行に転職し、執行役員市場運用部長として活躍した櫻井豊さんほど、本書のテーマに取り組むのにふさわしい人物はいないだろう。末尾の参考文献からは、櫻井さんが本書を書くために改めて相当勉強したことがうかがえる。
 
実は、私が東京銀行で通貨オプションデスクのチーフ・ディーラーだった時代に、櫻井さんは若きクオンツとして資本市場2部に属し、私は彼の価格モデルを頼りに日本で初めてノックアウト・オプション類(当時は「ストップション」と呼称した)の取り扱いを開始した(1989年)。

その後、ノックアウト・オプション類は為替や株式市場に広く出回るようになり、良くも悪くも度々市場やユーザーを激震(文字通りノックアウト(^_^;))するようにもなった。
最後に櫻井さんの思い(危機感)が凝縮された箇所を引用しておこう。
 
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引用:「一方で日本の金融業界の実情はどうでしょうか。残念ながらこのような(米国)の動きにまったく太刀打ちができないほど遅れをとっています。その理由は、護送船団形成された体質、数理的センスの欠如、経験と勘を重視するという日本人の特性などさまざまです。」
 
「とにかく、これまでの日本の金融業界では、人工知能など数理的な手法で市場取引やビジネスを構築するという発想とセンスが欠落していました。」
 
「(金融)ビジネスのシステムにおいて何か革新を起こすと言う発想がほとんどなく、昔からの枠組みの中での競争を好む文化があります。」
 
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しかし日本も「ダメダメ」ばかりではない。最後の6章では、日本では物理的な形を持たないAIの開発や利用には立ち遅れていても、なぜか物理的な形のあるロボットの開発と利用には強い関心と執着心が見られることが指摘されている。

その通りだろう。そして日本で人工知能開発に最近もっとも大胆な投資をしたのがトヨタであることも偶然ではない。おそらく日本のAIはロボットカーという形態で進化するのではなかろうかと私が思う理由でもある。

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