毎度のトムソン・ロイターの論考です。
抜粋引用:「『予想外な円安・ドル高と日本株買い』の動きについて読み解いてみよう。結論から言うと最大の要因は、トランプ氏の大統領選勝利までほとんどの市場参加者が本気で考えていなかったトランプ大減税が来年度に現実のものとなる可能性が急速に高まったことだ。
この大減税が本当に実施されると、来年以降のドル相場、米国インフレ率、金利動向、景気動向にわたって私を含むエコノミストが選挙前まで想定していたことをかなり修正するインパクトが生じる。変化の方向は、インフレ率アップ、金利高、ドル高、短期・中期の景気の上振れである。その点を説明しよう。
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この大減税が実施されると、連邦財政赤字の拡大、国債発行増、長期金利上昇、日米金利格差拡大、ドル高というシナリオが既に語られている。内外金利格差拡大がドル相場上昇をもたらすというのは国際金融論のテキストも語る基本命題なので、いかにももっともらしい。
しかし日米の長期名目金利格差とドル円相場の変化の関係性は実はとても不安定だ。実際に2010年以降の期間で検証すると、名目金利格差拡大がドル高(逆は逆)という相関関係は弱い程度でしか検出できない。期間によっては関係性がほぼゼロか、逆の場合すらある。
ところがこの関係性がほんの2~3か月前から非常に強く復活したのだ。なぜ金利格差とドル円相場の関係性が非常に強い度合いで突如復活したのか、これを語らないことには説明として意味がない。つまり同じ金利格差の変化でも、選挙投票日の迫った今年の夏以降と以前とでは、金利格差拡大がドル高に強くつながる何か違いが生じているはずだ。
それはトランプ大減税がもたらす米国の景気動向の上振れシナリオの浮上だ。
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ドル金利の上昇を伴った米国経済の潜在成長率からの上振れは、典型的には80年代前半(レーガン政権第1期の大減税、1983-84年平均実質GDP成長率5.9%)、90年代後半(クリントン政権第2期のITブーム、96-00年同4.3%)、2004-07年(ブッシュ政権第2期の住宅バブル、04-05年同3.6%)と過去何度か繰り返されて来た。
いずれの時期も米国の内需拡大で経常収支赤字は拡大したものの、金利の上昇と強い景況に引かれて海外から米国への資金流入が強まり、程度の違いはあるがドル高となった。市場参加者の一部はそうしたシナリオの可能性を今年の夏以降予想し始めたのだ。
それではなぜ選挙明けの11月9日の東京市場でドル売り、日本株売りが起こったのか・・・」
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以下の上段の図はロイター非掲載図で、全体的に見ると日米の名目長期金利差とドル円相場の変化(前月比)の極めて弱い相関関係と、その相関関係が2016年7月から急速に強まった様子を表示したものです。下図はロイターにも掲載した米国のGDPギャップとコアPCE物価指数の相関図です。
近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日