主要先進国経済パフォーマンス比較、危機前と危機後の比較
以前、金融危機前(2000-07年)と危機後(2010-16年)の主要先進国の一人当りGDP成長率の変化を示した図表を掲載、コメントしたことがある。以下
今回、一人当りGDP成長率に加えて、平均失業率の変化を加えた図表を作成してみたので、掲載してコメントしておこう。
データ:IMF World Economic Outlook Data base, April 2017
対象期間:2000-07年と2010-17年(17年データは見込み値)
対象国:比較的経済規模の大きな主要先進国12か国
これで見ると、危機前と危機後を比べて、失業率が低下し、かつ一人当たり成長率が上昇した国は、日本だけである。
南欧系の諸国が失業率、一人当り成長率とも悪化しているのはイメージ通りだ。 ドイツは失業率は大きく改善したが(9.3%→5.2%)、一人当たり成長率は1.7%→1.5%とわずかながら低下している。ドイツは2013-17年で見ると、失業率は4.6%と改善傾向だが、一人当たり成長率は0.8%にさらに低下している。 移民人口の増加でドイツはGDP成長率はやや高めなのだが、一人当りの付加価値生産額は低下しているのである。
米国は失業率が悪化(5.0%→6.9%)、一人当り成長率は1.7%→1.4%とやはり若干の低下である。
一方、日本は失業率が4.7%→3.9%へ改善、一人当り成長率は1.4%→1.5%(0.17%アップ)とわずかながら上昇している。
日本の失業率は今年3%も割れて、2%台に入り、1990年代初頭の水準にまで低下しているのは報道されている通りだ。ところが、この安倍政権下での失業率の低下は2013年前後に65歳を迎えた団塊の世代に引退によるもので、景気の実態は回復していないと揶揄する人達も一部にいる。
しかし私を含むエコノミスト諸兄姉が指摘している通り、2013年以降の失業率低下は雇用数の目だった増加を伴っており、景気の回復は明らかな事実である。
引用:「現下の人手不足は本当の景気の回復によるものではなく、2013年前後に65歳の定年を迎えた団塊の世代の引退によるものだと語る人々が一部にいる。それは全くの事実誤認だ。その主張が事実なら、人手不足は雇用の減少を伴っているか、少なくとも雇用は増加していないはずである。
確かに2010年1月―12年12月の3年間については、わずか13万人の雇用増加だった。ところが、2013年1月―17年3月の期間については253万人の雇用増加だ。すなわち2013年以降の人手不足は明瞭な雇用の増加を伴って生じている。」 (竹中正治 ロイターコラム 2017年6月2日)
と、まあ、ここまでは「過剰な悲観論に流されるのは、いい加減お止めなさい」という毎度のメッセージである。
ただし日本経済の弱点もある。 これも繰り返し強調してきたことだが、現下の日本経済の弱点は、雇用、企業利益双方の大幅な改善にも関わらず、賃金の伸びが抑制され過ぎていることだ。 失業率が2%台に下がってきたことで、「いよいよこれから賃金も上がる。そして物価も上がる」と期待する方々もいる(日銀黒田総裁、日銀政策委員会審議委員の原田泰氏、高橋洋一氏)。
しかし私は日本の上記直近のロイターコラムで述べた通り、日本の労働市場は1990年代後半の金融危機を伴った不況を境に、構造的な変化(労使の賃金交渉の姿勢や正規、非正規比率などの変化)を起こしており、失業率が90年代以前の水準に下がっても、賃金は90年代以前のように上がらないだろうと慎重な(悲観的な)見方をしている。 この点、どちらが正しいか、1年ほど経ったら、レビューしてみよう。
近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日