さて、前回のShiller PERの使い方に続いて、ドル円相場に関して、従来の考え方を一部修正したので、書いておこう。

過去、各種の論考や著作で次の様に説明して来た。
実質相場指数が示唆するドル高の天井圏」2014年11月、ロイター・コラム
 
引用:「為替相場は相対的購買力平価(以下「相対的PPP」)からの乖(かい)離と回帰を繰り返し、長期的には相対的PPPに収束する。これは筆者が一貫して説いてきた国際金融論の基礎的な知見だ。
今回のようにドル円相場の水準が変わると、大局的な水準観を求めてこの相対的PPPに関心を向ける方々が増えるようだ。ところが、勘違いをした見方をしている方が多いので、ここで注意しておこう・・・

要点をまとめると以下の通り。

1、為替相場(名目相場)は相対的購買力平価(PPP)が示す趨勢的なトレンドから乖離と回帰を繰り返す。

2、しかし相対的購買力平価(PPP)は起点依存である。通常ドル円では1973年起点が一般的だが、計算する起点を変えると形状の水準も大きく変わる。

3、そこで名目相場をPPPで割った実質相場指数とその長期的な平均値を計算すると、実質相場指数はその長期的な平均値から乖離と回帰を繰り返す(平均への回帰原理)。これで特定の起点依存を回避できる。

4、平均値から上方に大きく乖離したところはドル割高圏、下方に乖離したところはドル割安圏と判断して、長期投資目的で持高を操作する。

こうした観点から図表1に示した1973年からの実質相場指数グラフを作成、開示してきた(竹中正治ホームページ)

こうした考え方は、Shiller PERの考え方と実は共通であると分かるだろう。Shiller PERは名目PERの分母である一株当たり純利益(名目)の代わりに、過去10年間の実質純利益を使用し、さらにその値が長期では平均に回帰することを原理にしている。

ドル円の実質相場指数について、その長期平均値は実に驚くほど安定しており、第1図でも実質相場指数の1973年からの平均値はその線形近似線とほぼぴったりと重なってしまう。これはこの手法を私が使い始めた10年余り前から変わらない。

しかし超長期に安定と思われたShiller PERも、1990年以降趨勢的な上方シフトを起こし、100年以上にわたる長期平均値一本では間違った操作方針を導いてしまった。

ドル円実質相場指数も、起点である1973年からの平均値一本では今後不適応になる可能性がある。例えば使用している日本の企業物価指数、米国の生産者物価指数に何かしらのバイアスが生じ、相対的購買力平価計測上の歪みが累積することも起こり得る。完璧な経済統計データは存在しないのだ。

ではどうしたら良いか?指標判断に長期的な安定性と同時に超長期的な柔軟性を持たせた判断をするために、各時点での過去10年の移動平均値を計算し、その水準からの乖離と回帰を判断の基準にすれば良いだろう。

そうやって作成したのが第2図表である。目安として過去10年間の移動平均値から上下に一標準偏差乖離した水準を黄色線で示した。もちろん、一標準偏差の乖離はめど、参考水準であり、絶対的なものではない。

現状までのところ、新版から導かれる判断は、旧版をベースにした判断と大きな違いはない。現在の名目で1ドル=109円前後の水準は依然としてドル割高圏であり、私は自分のドル建て金融資産(3分の2は主にS&P500連動ETF、3分1はドル中期債券)について、90%の比率でドル売り持高を維持している。

以上、ご参考まで。

第2図表
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追加図表(9月6日)
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