今年4-6月期の実質GDP伸び率は2.5%となり、比較的高い伸び率となったが、賃金の伸び率は名目も実質も引き続き低調で、ちょっと上向いている消費もじきに息切れしてしまうのではないかという悲観的な見方もある。 

しかし、希望が持てるのは昨年後半から実質ベースの純輸出(=輸出-輸入)が伸びており、GDPの押し上げ要因となっていることだ。

上段の図は日銀が公表している実質輸出入である(直近データ8月)。実質というのは物価調整後の意味である。2016年後半から輸出が輸入を上回るようになってきた。下段の図は、その前年同月比の変化を示したもので、輸出の伸びが輸入のそれを2016年後半から上回るようになって来ていることがわかる。(このデータは輸出も輸入も2015年度を100とした指数なので、輸出と輸入の落差が国際収支の貿易収支と一致するわけではない点、ご注意ください)。

これは日本経済にとっても、安倍内閣にとっても順風だろう。円安にならないと輸出の伸びが落ちるのではないかと思う人もいるだろうが、そうでもない。2000年代以降の円相場と輸出入の動向を見ると、実質輸出入、あるいは数量ベースの輸出の増減と円相場の変化とはほとんど関係がなく、輸出の増減は海外景気動向(外需)の動きとの相関関係が高い。2016年後半以降、輸出が伸びているのも2015年に不安定化した世界経済が、2016年後半から穏かながら上向いているからだろう。

一方、為替相場との関係では輸出企業を中心に企業利益との関係性が高い。大雑把に言うと、円安では輸出企業は外貨建て価格を下げずに利益率を向上させる。一方、輸入企業は輸入仕入れ価格(円ベース)が上がるが、ある程度は消費者に転嫁できる。その結果、企業部門全体では利益増加となるわけだ。

さらに実質GDP成長率の項目別寄与度で見てみよう。2002年から07年までの景気回復期では、上段図で見てわかる通り、輸出の伸びが輸入を一貫して上回り、純輸出の寄与度は0.8%もあった。
一方で、2013年1Qから16年2Qまでの純輸出寄与度は0.2%にとどまった。

そのためこの時期は、「円安になったのに輸出が伸びない」と言われたわけだが、その主因は①輸出企業が円安になっても外貨建て価格を下げて輸出数量を拡大するよりも、収益性を向上させるような行動をとった ②中国を含む新興国経済の成長が鈍化、あるいは低迷し、世界的にも貿易量が低調だった ③企業が海外生産シフトを進めた等である。

ところが2016年3Qから17年2Qまでの純輸出寄与度は0.6%に上がってきた。おそらく①の事情は変わらないが、②の海外需要が穏やかな回復基調となったことと、③の海外シフトの動きが一服したからではなかろうか。 ちなみに2017年2Qだけの数字を見ると、純輸出寄与度は前期比でマイナスになっているが、2017年1Q比のブレであり、前年同期比では輸出が伸びる傾向は継続している。

輸出の伸びに加えて、雇用者報酬(実質)は2016年1Q以降平均で+2.3%(各四半期の前期比年率換算の平均)と堅調で、家計消費も同+1.4%と持ち直してきた。

来年にかけて世界景気の穏かな回復基調が継続する限り(そうなりそうな雲行きである)、日本も純輸出が景気を押し上げる効果が加わり、実質GDP+2%程度の景気回復が持続するのではなかろうか。 総選挙結果次第の面はあるが、与党の思惑通り勝ちを実現したら、「憲法9条の自衛隊合憲化改正」のみならず、順風を利用して各種の成長戦略、社会保障制度改革を含む難易度の高い改革を実行してほしい。