今日のニュースで年金給付の支給開始年齢を70歳超からも可能にする選択肢を設けることを政府が検討するという記事に目を引かれた方は多いであろう。


日経新聞記事引用:「政府は公的年金の受け取りを始める年齢について、受給者の選択で70歳超に先送りできる制度の検討に入った。年金の支給開始年齢を遅らせた人は毎月の受給額が増える制度を拡充し、70歳超を選んだ場合はさらに積み増す。高齢化の一層の進展に備え、定年延長など元気な高齢者がより働ける仕組みづくりも進める方針だ。2020年中にも関連法改正案の国会提出を目指す。

 現在の公的年金制度では、受け取り開始年齢は65歳が基準だ。受給者の希望に応じて、原則として60~70歳までの間で選択できる。受け取り開始を65歳より後にすれば毎月の受給額が増え、前倒しすれば減る仕組みだ。

 現行制度では、受給開始を65歳より後にすると、1カ月遅らせるごとに0.7%ずつ毎月の受給額が増える。例えば66歳で受け取り始めた場合、65歳から受け取るよりも月額で8.4%上乗せされる。いまの上限の70歳まで遅らせた場合は、受給額は同42%増える。」

 この記事を読んで、「では自分は何歳から受け取るのが一番得なのだろうか?」と考えたはずだ。
基礎年金について人によって異なる税効果を考慮しない場合、それを決定する変数は2つである。
第1は自分が何歳まで生きるかの余命である。これはだれでもわかる。 第2は自分の消費に関する時間割引率(discount rate)、あるいは年金受け取りというキャッシュフローに関する期待投資リターンである。

 将来にわたるキャッシュフローの価値は、割引率で割って現在価値を計算することで判断できる。これは2013年の弊著「稼ぐ経済学」がメインテーマとして扱ったことだ。 年金についても名目で生涯の受取累積額を計算するだけではなく、現在価値にして判断するのが合理的だ。

 この場合、割引率が高いということは、例えば同じメシでも、明日のメシよりも今日のメシの価値がずっと高いという人は、時間割引率が高いことになる。あるいは年金をもらっても当面は消費せずに運用する場合は、期待運用リターンが高いと割引率も高くなる。

 そこで基礎年金について計算したのが以下の3表である。上段の表は割引率ゼロの場合である。この場合は名目価値=現在価値である。横軸が年金受給を開始する年齢であり、縦軸は死亡する年齢とその時までの受給金額の累計である。各死亡年齢において累計受給額が最大となる受給開始年齢とその受取累計額を黄色でカラーにした。

 これで見ると、割引率ゼロの人は、70歳まで受給開始を遅らせた場合は85歳以上生きれば、累計受給額(名目=現在価値)が最大になる。つまり、あなたは年金ゲームに勝ったことになる。

 一方、中段の表は割引率が2%、下段は割引率が5%の場合である。割引率が高くなるほど、名目で同額でも現在に近い受取の現在価値が相対的に大きくなるので、早めに受給を開始した方が有利(累計受給額の現在価値が大きくなる)になる。

 以上の試算は、基礎年金のみであり、人によって様々に異なるそれ以外の年金部分(企業年金部分など)は勘案していない。また税効果も勘案していない。 税効果を考えると、60歳代後半でも年金以外の勤労所得が多くある人は、そこに重ねて年金を受け取ると税率が高くなる可能性が高い。また、将来、年金給付額が変わるという制度変更があれば当然結果は変わる。

 まあ、結局のところ自分は何歳まで生きるかという不確実な変数に依存する度合いが高い問題である。元気でピンピンしていても、事故や病気で突然死ぬかもしれないからね。


追記:2月1日  加筆補足したものが現代ビジネスに掲載されました。表は一部微細ながら計算の間違いがあったので微修正されています。以下サイト
訂正: 受給を遅らす場合の増額は年8.4%、繰り上げる場合の減額は-6%でした。また、65歳をベースにして増額は1年8.4%、減額は1年6%の実額を計算した後、70歳、あるいは60歳まで同実額で増減するという方式です。掲載表はその計算で求めた実額をベースにして作成したので、結果は間違ってないようです。



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