ご承知の通り米国株の歴史的な高値更新が続いている。「買いたいけど急落が怖くて買えない」あるいは「下落場面を買おうと思っているが、大きな下落がないので買えないまま」という投資家も少なくないだろう。 図表1参照。

たしかにリーマンショックの局面では、S&P500は2007年7月の高値から09年3月の安値まで約50%下落している。円建てで見ると、その時のドル安円高で下落幅はさらに大きかった。 リーマンショックのようなことがそうそう何度も起こるわけではないが、株式は過去大きな下落を繰り返している。 今は景気回復が継続し、今年は巡航速度からの上振れも期待されているが、いずれ景気後退局面になれば、大きな下落は不可避だ。

今年の1月のロイター・コラムに1950年以降の米国景気と株価の変動について以下の様に書いた。

引用:「景気後退が始まった場合、米国株価はどの程度その時の高値から下落するだろうか。1950年までさかのぼって景気回復期の高値から景気後退期にS&P500株価指数がどの程度下がるか見ると、景気回復期の株価の高値から景気後退期の安値までの下落が10回、さらに景気後退にはならなかったが、30%以上の下落が起こったことが2回(1987年と2002年)ある。直近高値からの平均の下落率は31.2%、下落率最大は49.9%(1973―74年)、最小は14%(1959―60年)である

 下落し始めたら売って逃げよう」と考えているのは、短期売買のトレーダーか素人筋だけだ。ちょっと下げ始めたからと言って、それが大きな下落への助走なのか、単なる一時的な小反落なのか、リアルタイムで知る方法などないからだ。 

 30%前後の株価の下落に耐えられないようでは、そもそも長期投資として株式投資をする資格はないのだが、まあ、ここはそう言わずに米国株を対象にポートフォリオの変動リスクを緩和しながら、ある程度高いリターンを確保する定石をご紹介しよう。

 別に特別なことではない。内外の株式から債券までポートフォリオに抱えている機関投資家ならみな承知していることだが、個人投資家でそれを理解して利用している人々は稀だ。

 まず米国株はS&P500に連動するETFを持つとしよう。また、債券は価格と利回りは逆に動き、償還までの期間が長いほど1%の利回りの低下(上昇)がもたらす価格の上昇(下落)は大きくなる。そして景気後退時には、金融が緩和されて利回りが低下するために長期債券価格は上昇する。

 したがって株式と同時に長期固定クーポンの債券を保有していれば、不況時の株価の下落をある程度ヘッジできる。 具体的にそれを示したのが第2図である。 S&P500連動ETFのIVV米国長期国債連動のETFであるIEFの配当込みの資産価格の推移を示した。

 IVVは2007年のピークから09年の底まで約50%下落しているが、IEFは約30%上昇している。したがって双方半々の比率で保有していれば、当時のポートフォリオ価値の減少は約20%で済む。リスク許容度の相対的に小さい人はIEFの比率を上げれば、リスクを低下できる(ただし長期のリターンも低下する)。 

図表2に示した黄色線がIVVとIEFを50:50にした合成ファンドの時価の推移である(全て配当込み)。つまり双方のETFを半々保有すれば、リスクを低下させながら、相対的に高いリターンを得られる。

図表3はIVVとIEFの全年同月比の変化の関係性を示したものだ。負の相関で相関係数は
-0.493である。 
 
図表4に各ETFと比率を変えた合成ファンドのリターン、リスク、Sharp Ratioを計測して(月次データ)一覧にした。 Sharp Ratioというのは、(当該資産のリターン-無リスク資産リターン)/リスク量で計算されるもので、リスク対比のリターンの高低を示すものだ。これを見ると、債券ETFと株式ETFで
50:50程度が最もSharp Ratioが高そうだ。

私自身はリーマンショック時には、S&P500のETF(iShares)と2006年秋に買った米国10年物国債(ゼロクーポン債、利回り5.1%)を60:40(株が60)で持っていたので、株式の評価損を緩和することができた。 

またドル相場の下落については、保有するドル建て金融資産(株と債券)に対してFXで90%比率でドル売りヘッジ持高をキャリーしていたので(キャリーコストはかかったが)、1ドル90円程度までの損失は大半回避できた。その後は分割して買い戻し1ドル80円割れでヘッジゼロにした。 こうしたことは今までの私の著作で述べて来たとおりである。

S&P500 ETFの中核持高は取り崩さずに継続しているが、現在は長期米国債は保有していない。これまでは長期金利が低過ぎる局面だと思っていたからだ。米国の景気回復がもうしばらく続いて10年物利回りが3%に絡んできたら、個別の長期債か、あるいはここで紹介した長期債券ETFを買って利回りを取りながらヘッジに利用しようと思っている。

またドル資産に対する為替のヘッジ率は約90%前後で、110円前後ではあまり動かすつもりはない。為替のヘッジ操作については、昨年のロイターの以下の論考をご参照頂きたい。

ETFについては、S&P500連動ETF(円ベース、為替リスクヘッジなし)は以前から東証で上場されている。米国長期国債連動のETFも昨年から東証で上場されている。以下の東証ETF一覧をご参照頂きたい。

最後に、日本については10年物国債利回りが金融政策で未だにゼロ近辺なので、長期債券の株式持高に対するヘッジ効果は、残念ながら期待できない。

 
図表2
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図表3
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図表4
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