以下の東洋大の一件については、私はあまり関心がないのだが、問題の学生君が竹中平蔵氏をもの凄く批判する理由について、その発言が引用されている。
引用1:「東洋大学白山キャンパス(東京都文京区)に立て看板を設置し、ビラをまき始めた学生が『退学を勧告された』事件について、当学生の船橋秀人(ふなばし・しゅうと)さん(23)に2月6日、話を聞いた。」
https://www.data-max.co.jp/article/27769/?fbclid=IwAR0dYLvvaOPHdhvQlr2PG9J79glMW-oCvwsMbnwTMbqSVEORke62akHUtRA
図表3
図表4
引用2:「竹中(平蔵)さんのことは、予備校時代に知った。2003年の労働者派遣法の改正を主導し、非正規雇用の労働者をこれほどまでに増やした。」
2003年の労働者派遣法の改正については以下参照。
「小泉政権・竹中平蔵大臣が労働者派遣法の変更で非正規雇用者を大幅に増やした」という批判は、この学生に限らず左翼系の方々の間で広く判を押したように共有されている認識の様だ。しかし控えめに言っても針小棒大な勘違いであり、はっきり言えばどこかの左派政党のアジビラなどをデータの検証もなしに鵜呑みにしている結果だ。
竹中平蔵氏は私の兄でもないし、親戚筋でもないが、事実に反するトンデモ論が横行するのは気味が悪いので手短に事実だけ指摘しておこう。
事実は以下の通り。
図表1:対象となる労働者派遣事業所の派遣社員数は非正規雇用全体の6%でしかない。
図表2:非正規雇用比率の上昇は、1990年代から民主党政権時代を通じて上昇して来た。
それが上げ止まって37~38%でフラットの推移になったのは安倍政権下2014年以降だ。
図表3:非正規雇用が増える一方、正規雇用は長期的に減る一方のようなイメージを語る人が少なくないが、実は正規雇用総数は長期で見ると3千数百万人前後で比較的安定している。
生産年齢人口の減少にもかかわらず正規雇用が安定しているため、25歳~64歳の人口に対する同年齢の正規雇用者数の比率は上昇している。この点は以下論考参照。
図表4:2003年の労働者派遣法の改訂以降(施行は翌年3月から)の非正規雇用者の増加全体に占める派遣社員カテゴリーの増加の寄与度は12%に過ぎない。
また第2次安倍政権期の雇用者の増加は468万人(正規雇用161万人、非正規雇用306万人、増加した非正規の大半は女性と65歳以上高齢層)、一方民主党政権期の雇用者の増加は48万人、しかも正規雇用は50万人の減少、非正規は98万人の増加だ。
最近、安倍首相が「民主党政権期の悪夢」と語ったことが話題になった。安倍首相が何をもって悪夢と言ったのかは私にはわからないが、リーマンショック後の景気回復期にスタートした政権であるにもかかわらず、その雇用に関する成果は確かに悪夢だったと言って良いだろう。
なお、非正規雇用の長期的な増加要因は90年代に起こった日本の労働市場の構造変化によるもので、日本の労働経済学者の間で概ね見解の一致があるようだ。私にとっては専門外だが、過去の論考の中で説明して来たことなので、ここでは省略させて頂く。
図表1
図表2
以上
追加図表:一人当たり実質GDP成長率の主要国比較