日経ビジネスオンラインに寄稿した私の論考がヒット件数のトップになった。
「亀井案こそ郵貯を潰す、時限爆弾のスイッチを入れた郵貯簡保の限度額拡大」4月7日(水)http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100405/213833/
(日経ビジネスの過去の私の論考は以下のサイトでご覧いただけます。)
昨年12月末に掲載された「もう鳩山首相を諦める? 友愛という優柔不断が日本を壊す」もヒット件数が爆発して、66件のコメントが寄せられた。ただしその時は、「この野郎、何言ってやがんだ!」系の反発コメントが多かった。(書かれている内容をちゃんと理解していない脊髄反射的な反発がほとんどだけどね。)
今回も右と左から「この野郎!」系のコメントを予想していたのだが、以外と冷静な賛同コメントが多かったので、拍子抜けした。まあ、私もご理解、ご賛同頂ける方が情緒的には嬉しいのだが。
ただ私の判断、分析のスタンスは前回も今回も同じで、鳩山政権はもっと政策の経済合理性、整合性、一貫性を身につけないと行き詰まるよと言っているに過ぎない。
反発よりも賛同が増えたのは、さすがにハト&カメ政権のやっていることに国民が唖然とし始めている結果かもしれない。
今回は、郵貯の収益構造は単純に長短の金利イールド(定額預金調達と長期国債運用による金利スプレッド)に依存しているので、国債金利が1%上がる(=国債価格が下がる)だけで債務超過に陥ると、まともな金融系エコノミストならだれでも分かっているALM上のリスクを指摘しただけだ。
字数の制約で割愛した論点をこのブログで以下に補足しておこう。
寄せられたコメントに次のようなものがあった。
「膨張を続ける国債への将来不安は、すでに一般論として共有されており、郵政をはじめ金融機関がそれに備えた対策を模索し、リスクヘッジ経営を強化するのは当然のあり方である。(中略)郵貯あるいは郵便局の存在そのものの意義、重要性を改めてきちんと認識してからにしてもらいたい。」
確かに、郵貯が今抱えているALM上のリスクをヘッジ(回避)する手段は幾通りかある。
その1、保有している国債を長期から短期にシフトする。そうすればデフレがインフレに転換した時に不可避の国債価格の下落(=利回りの上昇)の損失を最小限にできる。ただし、短期あるいは期間中期(2,3年)までの国債利回りは現状ではゼロに近いから、リスクは消せるが、運用収益も失わざるを得ない。
その2、金利スワップ取引で将来の金利上昇リスクをヘッジする。
この場合は、長期国債ベースの固定金利で利息を支払い(現行1.3~1.4%)、短期金利(現状ゼロに近い)を受け取る金利スワップ取引を、保有する中長期国債の保有金額と同じだけの想定元本で締結すれば、金利上昇リスクはヘッジ(回避)できる。でも、それは「その1」と同様に利鞘収益を全部失うことを意味する。
要するに運用をほとんど国債で行ない、民間の金融・投資機関のように信用リスクなどその他の様々なリスクを負わずに、長期と短期の金利スプレッドだけに収益を依存している郵貯は、デフレからインフレに転換し、国債価格が下落(利回りが上昇)すれば必然的に巨額の損失を抱えることになる。
それを回避する唯一の手段は、民間の金融・投資機関のようにローンの信用リスクや株式の価格リスクなど様々なリスクを抱えながらも、それを管理する分散された資産ポートフォリオに資産構造を転換するしかない。
しかし、永年にわたり官制で国債運用だけでやってきた郵貯にはそうしたノウハウがない。それを急速に身につけて劇的な変貌を遂げるためには、民間の金融・投資機関を大規模に買収でもするしかない。
しかし官営のまま民間の金融機関の大規模買収に乗り出すなんて、社会主義を目指すのでない限り、いくらなんでも受け入れられないだろう。だから、行き詰まりは必然だと言うことになる。
私は郵便事業の全国一律サービスを維持すべきだという理念まで否定はしない(別に支持もしないがね)。ただしどのような政策理念であっても、それを実現する方策は経済・金融の合理性に基づいたものでなければ破綻するよ、と言っているに過ぎない。ところが、ハト&カメ内閣に一番欠けているものが、そうした知見だと言わざるを得ない。
終わり