たけなかまさはるブログ

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2011年07月

このブログのリピーターの方々には、既に常識化した知識だが、今日(7月4日)の日本経済新聞本紙
Monday Nikkeiの面に「長期の外貨投資、購買力平価を軸に」(田村正之編集委員)の記事が掲載された。 こういう知恵を世間一般のリテラシーとして普及させるためには、繰り返し何度も語る辛抱強さが必要だ。
 
私のコメントと(財)国際通貨研究所の購買力平価と為替相場のグラフも掲載されている。
「購買力平価ってなんだ(@_@)?」と思われる方は是非この機会に理解しておいて頂きたい。
 
私のコメントが引用されているところを含めて、記事の一部を以下に掲載しておこう。
紫色の文字が記事の引用部分。
 
「06年当時に著書などで「現在は円が割安で、いずれ円高への大きな戻りが来る」と警鐘を鳴らしていたのが、国際通貨研究所経済調査部長などを経て現在は龍谷大学教授の竹中正治さんだ。
判断の背景が購買力平価だった。」
 
おっ、誉めてくれているぞ(^^)v
 
「プロの間で「長期では為替は購買力平価を軸に動く」(大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミスト)のは常識。「為替はモノとモノの交換価値なので、長期では当然インフレ率の差で決まる」(JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・債券為替調査部長)」
 
確かに「常識」だ。でも2006年~07年前半の円安の時に、「円高への大きな戻りがいずれ到来する」と言った、書いた、出版した「プロ」がほとんどいなかったのは、なぜだろうか? 
 
また、当時「グロソブ」などの外債投信を売りまくっていた資産運用会社にはプロはいなかったのだろうか? → この点については、「いなかった」が私は正解だと思う。
 
「現状は「ドルは購買力平価で考えても円に対しそこそこ割安」(竹中教授)だし、グラフBの実質実効レートで見ても、数年前に比べて外貨投資の危険性は相対的に高くない。」
 
でも短期的、中期的に70円程度まで円高に行ってしまうリスクはまだ残っている。相場とはそういうもの。
 
「短期~中期では高金利の通貨に資金が流れ為替も上昇しがち。「しかし通貨価値は逆に下がり続けているので、何かのショックがあったときなどにドスンと落ちて金利差が吹き飛ぶ繰り返し」(竹中教授)だった。」
 
相対的購買力平価:
 「例えばハンバーガーの日本での価格が100円で、米国での価格が1ドルなら、1ドルと100円の購買力は等しいので、為替レートは1ドル=100円で釣り合うと考えられる。このような考え方を「絶対的購買力平価」という。英誌「エコノミスト」の「ビッグマック指数」などが有名。ただ現実には関税や輸送コストなどがかかり厳密には成り立たない。
 そこで2国間のインフレ格差から為替レートを計算する方法を「相対的購買力平価」といい、実務ではこちらが使われることが多い。例えば、基準時点で1ドル=100円だったが、10年後に米国は物価が2倍になり、日本の物価は全く変化しなかった場合、ドルの価値が半分になったので、相対的な購買力平価は1ドル=50円と計算される。相対的購買力平価は何年を基準にするか、企業物価、輸出物価などどの物価を選ぶかで値が違ってくる。」
 
ドル円、ユーロ円、ドルユーロの3つの購買力平価グラフを掲示している(公益財団)国際通貨研究所の
サイトは以下。
 
 
竹中正治HP
 
 
 

atok440さんのご質問
政府のバランスシートは既に数100兆円規模の負債超過だと書かれていますが、日本が海外に貸している資産の部分は加味されているのでしょうか? 国のBSに関してはいろんな方面でのコメントがあり、個人が把握しにくい面があります。教えていただけないでしょうか
 
政府のバランスシートを企業の貸借対照表と同じで原理で作成するべきではないのか?ということが小泉政権時代に提起され、2000年版から作成、公表されている。以下の財務省サイトで過去の分も全部見ることができる。
 
国の財務書類
 
以下の平成22年(2010年3月末時点)の連結BSを見てみよう。
 
連結の対象は以下の通り(本文に記載されている)。
「連結財務書類は、一般会計及び特別会計に加えて、各省庁から監督を受けるとともに、財政支出を受けている特殊法人、認可法人、独立行政法人、国立大学法人等(以下「連結対象法人」という。)を連結している」
 
資産負債差額としての負債超過額は357兆円である。前年比43兆円も負債超過が拡大している。
 
資産の部に「有価証券」228兆円とある。この中に外貨準備として保有している約1兆ドル余の外債(大半は米国政府債)が含まれている。外貨準備の見合いに、負債サイドでは短期の政府証券(TB)残高がある。 
 
勘違いされている方が少なくないが、外貨準備は資産・負債両建てであり、純資産ではない。80円で換算すると30兆円近い評価損が生じている。 評価損を見合いにドル建ての高い利子所得を得ているが、その一部は一般予算に納入されてきたため、現在残っているのはネット評価損である。
 
また、「貸付金」189兆円のほとんどは政府系金融諸機関からの融資残高である。
 
バランスシートの下に以下のように注書きされている点に注意。
「国が保有する資産には、公共用財産のように、行政サービスを提供する目的で保有しており、売却して現金化することを基本的に予定していない資産が相当程度含まれている」
 
つまり現金化できる資産だけで計算すると、負債超過はもっと大きくなる。
 
重要なポイントとして、「公的年金預かり金」133兆円は負債サイドに計上され、それを見合いにした運用有価証券残高がほぼ同額資産サイドの「有価証券」に計上されていると理解できる。
 
分かっている方には常識だが、公的年金預かり金は、資産項目ではなく、負債項目である。なぜなら将来の給付義務に充当されるものだからだ。しかし、本当に将来にわたる給付義務総額(負債)と徴収拠出金(資産)を全部計算して、その現在価値を求めると、さらに数100兆円規模の巨額の負債超過が加わる。 それを財政学者が試算した論文もある。
 
それも負債に加えて表示すべきではないか、という議論が2000年代初頭にはあり、試算されたこともあるが、どの国の政府もそんなことはやっていない(どこの政府もそれをやったら負債超過が激増する)ということで、その後はその計算はなされていない。
 
こういうデータも「国債残高膨張問題なし論者」は、増税するために財務省がでっち上げたデータだと思うのだろうか。 それなら、財政学者に作業を依頼してでも、それを示すだけの論拠、証拠を提示していただきたいものだ。
 
竹中正治HP
 

先日日経ビジネスオンラインで銀行の国債保有額が急増していることを切り口に書いたが、
本日の日経新聞にやはり銀行の国債保有が急増していることに注目した記事がでた。 記者くん、私の論考に触発された?(^。^)  
 
ただし、銀行の国債保有は当然のことながら金利リスクを計測したうえでやっていることなので、保有国債の平均残存期間はそれほど長くない。紙面に掲載された図表から大雑把に計算すると、3メガ銀行で平均3年弱だろう。
 
注:「長期の債券ほど1%の利回り上昇に対応する債券価格の下落幅は大きくなる」 私のブログをご覧頂いている方々には、こんなことは常識的な知識だと思うが、世間一般ではそうではない。
 
記事では「長期金利が1%上昇した場合に発生する損失を計算すると約2兆円」と書かれている。
しかし私の計算では残存期間2.5年の場合、利回り1%の上昇(0.5%→1.5%)で、発生する損失は3.8兆円になる(計算は残高158兆円4月末ベース、記事では3月末残高ベース)。
 
おそらく長期金利は10年物国債が1%利回り上昇という想定だろうか。中期金利はその場合、長短金利イールドがあるので、1%より小幅な上昇にとどまる。例えば期間2.5年の債券利回りが、0.5%→1.0%という想定だとほぼ2兆円の損失になる。
 
以前これもビジネスオンラインに書いたが、郵貯バンクの国債保有の平均残存期間はもっと長く、金利上昇リスクは大きいだろう。
 
ちなみに158兆円の平均残存期間が2.5年で、同期間の金利が0.5%→3.25%に2.75%上昇すると、評価損はちょうど10兆円になる。  そんな「想定外の巨大津波」が近い将来到来するとは誰も考えていない。私も短期的にはそんな可能性はゼロに近いと思う。  
 
しかしこのまま政府債務が膨張を続けて10年経てば、その時には総額1000兆円になっている国債残高がもたらす金利上昇リスクは、もっと大きくなる。
 
例えば、1000兆円の残高で、平均残存期間5年間、金利上昇2%(1%→3%)の場合、生じる評価損失額は87兆円になる。ちなみに日本の銀行が90年代のバブル崩壊後償却した損失の総額は約100兆円だ(1992-2005年)。
 
ちょうどプレートの移動で、大地震を起こす地殻のひずみが累積していくようなものだ。
 
負債が大きくても、それに見合う資産があり、負債コストの上昇に見合う資産サイドの投資リターンの上昇が生じるなら原理的に問題はない。しかし、政府のバランスシートは既に数100兆円規模の負債超過である。
 
竹中正治HP
 

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