米国のNBER(National Bureau of Economic Research)のプレジデントであるマーチン・フェルドスタイン先生が、直近のNBERの論考、What's next for the dollar?の結論を以下のように締めくくっている。
In conclusion, there would be both strong positive effects of a dollar decline on aggregate demand but also adverse effects on real incomes and on the price level. But the decline of the dollar during the next few years is not a matter of choice to be decided by weighing the advantages and
disadvantages of a lower dollar. It is something that is likely to happen.
If it does, we will see a continuing decline of the dollar and with it a greater hope for a stronger
economic recovery.
訳:
「結論として、ドル相場の下落については(貿易収支の改善による)需要拡大の望ましい強い効果と、実質所得と物価水準に関する望ましくない副作用の双方がある。しかしながら、ドル安の有利な点と不利な点をどう勘案しようが、これから先2、3年のドル相場の下落は選択の問題ではない。どうあろうと、ドル相場が下落する蓋然性は高いということだ。 そうであるならば、私達はドル相場の続落を見ることになり、それによって強い経済回復が期待できるだろう。」
ご存じの方も多いだろうが、フェルドスタイン先生は米国の長老的なエコノミストで、2000年代も一貫して米国家計の貯蓄率が低下し過ぎていること、それを引き起こしている住宅価格の高騰は持続的でないこと、その結果として生じている経常収支赤字の拡大がリスクであること、などに警鐘をならしてきた。
当時、バーナンキをはじめ米国の主流はエコノミストは、great moderationという言葉に象徴されるように米国経済パフォーマンスの良好さを誇示していたので、フェルドスタイン先生の相変わらずの警鐘口調を「時代遅れのロートルの昔から変わらぬ言い草」と受け止める雰囲気があった。ITブームの最中に、IT銘柄に投資しないバフェットが「時代遅れ」と陰口をされたのと同じ感じだ。
で、フェルドスタイン先生、今のドル相場の下落は、これまでの持続不可能なコースに対する不可避的な調整と考えているということのようだ。それは正しいと思う。もっともどの通貨に対して、どの程度下がるのかというような仔細なことは何も言っていないので、短期的な相場取引の役には立たないけどね。
中長期の視点でドルを買うなら、金利差ほぼゼロのFXで買ってもキャリー益がゼロに過ぎない。10年物米債を買っても利回り2.8%では、フェルドスタイン先生の言う通り目先2~3年ドルがまだ下がるなら、その下げが年率2~3%程度の穏やかなものでもチャラにしかならない。
ドル相場の下落で一番回復するのはメーカーを含む大手企業の株式だろう。とすると株を買っておけということになる。私は東証のS&P500のETFでちびちびと買い下がろうかと思う。
ちなみに以下の図は円換算表示にしたS&P500、目盛りは対数表示にしてある。右肩上がりの直線で近似線が描けるということは一定の年率で上昇していることを示している(この場合、通常の10進法メモリにすると右上に反り上がる形になる)。この近似線で示したトレンドを信じるなら、下方への乖離度は、逆張り派の心情をちょっと刺激する感じになってきているように見える。
「でも、いよいよ中国でバブルがはじけたりしたら、米国も日本も含めて世界経済がまたクラッシュしちゃうんじゃないの?」 そうだな、そういうリスクも確かにある。だから、資産体力の許す範囲でね、ということだね。