たけなかまさはるブログ

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2012年06月

「奇跡の脳(My Stroke of Insight)」ジル・ボルト・テイラー、新潮文庫、2012年4月
(↑例によってアマゾンにレビュー掲載しました。良かったら「参考になった」クリックお願いします)
 
著者はアメリカの脳神経解剖学者だ。37歳の時に左脳内で血管が切れ、脳卒中となる。左脳の機能がマヒした状態から、手術を経て、回復に至るリハビリ物語でもある。以前、TV番組(NHK?)で著者のストーリーは見て知っていたが、本が出ていたことを知って読んだ。脳科学者が左脳マヒ状態を自ら経験し、自己観察するというある意味では希有な体験を語ったものだ。

左脳が機能マヒを起こしたことによって、著者は言語を失い、数字と文字を判読できなくなり、自分と世界の境界が分からなくなる。同時に自分は世界と一体だという不思議な涅槃感覚にひたる。それは右脳の感じる自己と世界だったと気づく。

左脳から血の塊を除去する手術を受け、死んだ左脳の回路を母に助けられながら、一歩一歩回復するリハビリの経過が語られている。「失ったこと、できないことを悲嘆するのではなく、ひとつひとつできるようになったことを喜ぶ」ことでリハビリのプロセスが、ポジティブな感覚でつづられている。

後半部では右脳と左脳の機能的なコントラストについてわかりやすく、文字通り著者の経験談として書かれている。右脳は感性的で今の瞬間のことに傾斜する。左脳は計画的、分析的で、過去から未来への時間感覚の中で行動を管理している。現代社会はある意味で左脳優先、左脳支配の環境だと言えるだろう。左脳は自分と他者を比較して妬んだり、卑屈になったりネガティブな感情の源泉にもなっているという。

結局、著者は右脳の価値に覚醒することで、左脳のネガティブな面の復活を抑制しながら、右脳と左脳のバランスをとることができるようになった。確かに現代社会は左脳の全力疾走を要求するようなストレスの多い社会だ。左脳の暴走を抑え、右脳スイッチを操ることができるようになれば、人生はより豊かになるというのが貴重なメッセージであろう。
 
竹中正治HP
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  ユーロ圏の抱えている原理的な矛盾については、過去すでに雑誌(週刊エコノミストなど)に繰り返し書いてきたし、エコノミストの間でもほぼコンセンサスだと思うが、世間一般にはそうでもないのかもしれない。週刊エコノミストの連載(7月掲載)に、この問題をコンパクトにまとめた論考を書いたので、その一部を以下に掲載しておこう。
 
****
国際通貨・金融制度について、「トリレンマ」として知られている原理がある。為替相場の安定、独自の金融政策、国境を越えた資金移動の自由、この3つを同時に満たす制度は原理的に不可能で、同時に実現できるのは2つまでという命題だ。
 
為替相場の不安定な変動は厄介なことだが、為替相場変動リスクを統一通貨によって解消したユーロ圏では、各国は独自の金融政策を放棄することがその代償になった(の選択)。その結果、通貨・金融政策は統一されたが、払わなければならない代償は、この後すぐ述べるように予想以上に大きかった。
 
また各国通貨を維持しながら、固定相場を導入するならば(の選択)、その代償に国境を越えた資金移動の自由を放棄せざるを得ない。すなわち海外の金融資産を自由に選んで投資することや、海外から資金を自由に調達することは放棄しなくてはならない。これは現在の中国を始め新興途上国が程度の差こそあれ採用している政策だ。そしての組み合わせは米国や日本など先進諸国が最も多く採用している変動相場制である。
 
 各国独自の通貨・金融政策を放棄したことの代償が、当初予期された以上に大きかったのがPIIGS諸国だ。まずPIIGS諸国はユーロ統一以前には相対的にインフレ率の高い諸国として知られていた。インフレ率が高いなら、金融政策により適用される金利も高くなくてはならないが、ユーロ発足で金融政策は一本化された。それによって実現した金利水準は、ドイツなどにとってはやや高過ぎ、PIIGS諸国には低過ぎるものとなった。その結果、PIIGS諸国は2007年までは住宅ブームに後押しされた好景気を謳歌したが、それは結局バブルとなり、米国での金融危機を契機にバブル崩壊型の不況に突入してしまった。
 
人工心臓で命を保つユーロ圏
 また、PIIGS諸国はドイツと比較すると労働生産性の上昇率で劣っているにもかかわらず、通貨相場の切下げという選択肢が放棄されたので、域内での経常収支不均衡が拡大した。もちろん、PIIGS諸国の赤字拡大である。2007年までは順調に流入する外資が経常収支赤字をファイナンスしていたが、危機で民間資本の流入はストップ、ないしは逆流するようになった。それを埋め合わせるために今ではPIIGS諸国の中央銀行とECB(欧州中央銀行)の間の貸借(PIIGS諸国中銀の借り)が急膨張している。たとえて言うならば、自力で血液(資金)が循環しなくなったので、人工心臓(中央銀行間の貸借)で血液(資金)を循環しているようなものだ。
 
 こうした危機的な事情を反映して、例えばスペインではGDPに占める政府の債務(グロス)比率は70%程度と、日本(約200%)や米国(約100%)と低いにもかかわらず、10年物国債利回りは57%まで上昇して高止まり(価格は下落)している。
 
 不況にかかわらず国債金利が高止まりしている状態が、いかに長期にわたって持続不可能であるかを理解する必要がある。例えばスペインが厳しい財政緊縮を続け、EU(欧州連合)の新財政協定で目標とされた年間の財政赤字はGDP0.5%以内という厳しい条件を達成、持続でき、名目GDP成長率が3%で成長したとしても、国債金利が平均6%だと政府債務残高は今後どうなるか。
 
試算方法は紙面の制約で省略するが、GDP比で2011年の約70%から2050年には250%に膨張してしまう。国債金利が5%でも2050年にはGDP180%になる。こうした政府債務残高の一方的な膨張は、国債の将来の元利返済に対する投資家の不安をかき立て、ますます投資家はスペイン国債に高いリスク・プレミアム(超過利回り)を求めるという悪循環に陥っているのだ。
 
 こうした状況に対する究極的な解決策は、「欧州連邦」として通貨、金融政策のみならず、財政を含めた主権を統一することである。日本の都道府県や米国の州が、各県や各州の経常収支不均衡を気にすることなく、ひとつの国家財政の中で統合されているのと同じ状態になれば、ユーロ圏の今の問題は解決する。しかし、欧州連邦を目指す政治合意は依然ないし、仮にそれを志向する場合も、極めて長期的な時間を要するだろう。それまで金融システムが麻痺し、経済停滞で失業率が高止まりを続けることは、政治的に到底不可能だろう。つまり財政緊縮とそれへの政治的な反発の間で揺れ動くことを繰り返すことになる。ギリシャはユーロにとどまるよりも最終的に離脱する可能性が高い。
 
 こうした状況を勘案する限り、ユーロ圏の苦悩は今後収束に向かうよりも、まだ始まったばかりであると考えた方が良いだろう。ユーロ圏には危機と小康状態を繰り返す10年間がこれから待ち受けていると筆者は考えている。結論として、ユーロ相場の今後の下落余地はまだ大きく、PIIGS諸国の国債金利は長期にわたって不安定な状態が続くだろう。
 
参考サイト:
ユーロ相場と購買力平価について
PIIGS諸国の国債利回りについて

以下サイトは、facebookでエコノミスト友人から紹介されたユーロ圏の救済ファンドの規模だ。
 
この救済ファンドにおけるドイツのPIIGS向け与信エクスポジャーは7040億ドル(約70兆円)、大半はユーロ決済システム・ターゲットを通じた中銀間貸借とEFSFを通じたものだ。これが全部デフォルトすればドイツの財政・金融もふっとぶことになる。事の重大さがわかる。
 
ちなみにGIPSという用語は、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、これにイタリアを加えると
PIIGSになるが、さすがに仲間内ではPIIGSという蔑称を使えないので、GIPSという表記をつくったのかもしれない。
 
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以下の新聞記事、太陽光発電で原発を代替できるんだというご主張の方が引用していたんだが、問題は供給量ではなくて、太陽発電で上昇する発電コストを国民が負担する覚悟があるかどうかなんだよね。
 
産業向けは家庭向けより安いから、産業界が負担しろって言う人もいるだろうが、コストが増加した分だけ、企業はコストが安い海外海外に出て行くよ。つまり雇用も減る。そこまで考えている?
 
ドイツは電力料金格差(家庭用>産業用)が、日本よりもずっと大きいことも言い添えておこうか。「原発リスクは経済の問題より命の問題」という方々は、当然それに見合ったコスト負担をする覚悟があって言っているんだよね? えっ?政府がなんとかしろって? 政府って国民の税金で運営されているんだよ・・・・
 
電力料金の国際比較は次のサイトご参照http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/shiryo/110817kokusaihikakuyouin.pdf#search=
 
記事は東京新聞、2012年5月30日付
******
 
以上facebookに掲載したら、多くの「いいね」と賛同のコメントを頂きました。
 
追記:2012年6月20日
snowbeesさんからの紹介記事とサイトです。補足情報として。
引用:The costs of subsidizing solar electricity have exceeded the 100-billion-euro mark in
Germany, but poor results are jeopardizing the country's transition to renewable energy.
The government is struggling to come up with a new concept to promote the inefficient
technology in the future.
 
 
 
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KK02さんからのご質問を考えて見よう。KK02さんの引用した以下の書籍は読んでいないので、引用された文章からのみの読解になるが、ご了承頂きたい。青字が引用、黒字の部分が私のコメント。
 
まず以前にコメントした通り、中間財も含めた全ての商品×価格が総所得より大きくなるのは、国民経済統計上必然的なことであり、それ自体が不均衡をもたらす必然性はない。
問題は、総付加価値供給力としての潜在GDPと現実の所得=生産=支出(3面等価)の均衡が崩れることだ。標準的な経済学では、それは短期・中期では生じるが、長期では生じないとして考えている。
 
◆ リチャード・C・クック著 『C.H.ダグラス:通貨改革のパイオニア』 より
「ダグラスは、生産プロセスにおける時間の経過の中で為さねばならない様々な理由のため、製造される物の値段とそれを消費するために必要な購買力の間に金銭上のギャップが存在することを詳述している。
このギャップを引き起こす要因に関して、ダグラスは1932年のパンフレット新旧の経済学の中で、次のように書いている。」

「商品の総合価格と比較して購買力が不足するのには、少なくとも次の5種類の原因があると断言できる。

1. 大衆から集められる金銭上の利益(利子は不可解な利益である)
大衆から集められる金銭上の利益(例として利子所得)が、どうして不均衡の原因になる必然性があるのか、理解不能。利子所得も貸手(最終的には預金者や投資家)の所得として100%消費されれば、不均衡の原因にはならないし、それがさらにファイナンスされて、他の経済主体の支出になれば不均衡は生じない。

2. 貯蓄、すなわち購入することの棄権
別に貯蓄自体が無条件で不均衡の原因になるわけじゃない。
経済全体では(閉鎖系という海外との取引を考えない前提)、必然的に貯蓄=投資になるが、皆が貯蓄しようとする場合には、貯蓄増=消費減→生産減→雇用減&投資減→所得減→貯蓄減という縮小再生産のプロセスになり、貯蓄=投資が結果的に均衡しながら縮小する。

3. 即座に購買力に向かわないで新しいコストを生み出す新しい仕事への投資
理解不能。具体的にどういう事例を言っているのか?なんらかの投資ならば、必ず支出を伴うはず。つまり需要を生む。
 
4. 前期の原価会計サイクルが値段に反映されるという処理がもたらす、原価償却と値段発生の間の巡回速度の差異。実際に、すべてのプラント管理はこの性質を帯びていて、前期の賃金サイクルから生み出される資材に対する全ての支払いは同じ性質を有している。
「原価償却と値段発生の間の巡回速度の差異」というのが具体的にどういう事情を言っているのか不詳だが、私がパン屋の例で示したように、数期間にわたって償却される資本財(パン焼き窯)を想定すると、各期の需要と供給力の均衡は、より難しくなるのは確か。ただし全期間を通じれば、そうした不均衡は原理的に生じない。

5. デフレーション、すなわち銀行による有価証券売却および負債回収
これは信用収縮のことを言っているのだろう。しかし銀行が有価証券(例えば国債)を売却してもそれは他の誰かが買うわけだから、それが直接に信用収縮を招くわけではない。ただし銀行部門全体のローン回収(=非銀行部門のローン返済)は、私が「皆が貯蓄を増加させる(含む負債を減少させる) 」場合のことだから、潜在供給力と需要の間に不均衡が生じて、縮小再生産になる。

ダグラスの議論は、短期・中期の議論をしているのか、長期にわたる原理的な不均衡の発生を主張しているのか、議論が整理されていなくて、判然としませんねえ。
 私の暫定的な結論としては、ダグラスの議論はやはりセーの法則への批判のひとつのバリエーションだと思う。
 
ただしマルクスやケインズがやったような当時の経済学のロジックや概念を踏まえての批判ではなく、かなり我流の議論を展開したので、経済学者からはあまり顧みられることがなく、同時に経済学界外の一部からは「正統派の経済学に対して新規な批判」を展開しているように受けとめられているだけなのではなかろうか。
 
 
 
竹中正治HP
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紀伊国屋書店、2012年4月(↑例によってアマゾンにレビュー書いています。よろしければ「参考になった」をクリックしてください)
 
著者はロンドン大学の名誉教授、元々は心理学が専攻だが、その知見は心理学から進化論、脳科学、哲学、宗教に及ぶ。なにしろ自己意識という超難題を解こうとするのだから、学際的なアプローチになる。著者の重層的な論理を数行で要約するのは困難だが、最も基本的な視点は進化論的なアプローチだろう。

自己意識というものは、我々がみな持っていると感じながら、直接他人の自己意識の存在を観察することができない(相手は心がない心理学的なゾンビで、人間らしく反応しているだけなのかもしれない)。 しかし、「我、感じる。ゆえに我、存在する」である。 自己意識も存在する以上は、自然環境の淘汰圧の中で生存上の有利性があったからこそ、進化して来た産物であるはずだとして読み解いていく。

しかし自己意識(この文脈では「現象的意識」と著者は呼んでいる)の特徴は、視力とか聴力、羽などのそれがなければできないことを可能にするような役割ではなく、「それがなければしようとは思わないことをするようにやる気をださせるもの」ではないかと言う(p94)。

もっと具体的に言うと、現象的意識には正真正銘の生物学的価値があるのであって、それは「(それがなかった場合よりも)付加された生存の喜びと、自分が生きている世界の新たな魅力と、自分自身の形而上学的な重要性という新規な感覚のおかげで、個体が自分の生存のために行う投資が、進化の歴史の中で劇的に増えた」ことにあると説く(p97)。

自己意識を持つ結果として人間は(自己意識を持つ以前よりももっと)死を恐れるようになったと理解できるならば、それは他のどんな動物の生物学的適応度よりも、人間の生物学的適応度の向上に貢献する」(p130)。

と同時に自己意識を形成するに至った人間は「生への強い執着」と「死の不可避性」という難問を背負うことにもなる。その難問へのひとつの解決法として魂の不滅性という宗教の中核的な信条が生み出されたと理解することで、宗教を求める人間の心理学的基礎も読み解いてしまう(12章「死を欺く」)。

自己意識の謎を取り扱う書籍は、これまで幾冊か読んだが、おそらくベストの一冊である。
 
竹中正治HP
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一般報道では国債利回りが7%近辺になると持続不可能な水準とか報道されているが、国債金利がいくらならPIIGS諸国の政府債務(対名目GDP比率)は、発散的な膨張ではなく、安定化するのだろうか?
 
簡単な計算なので、ご関心のあるかたはお付き合い頂きたい。
Dt+1 : t+1期の政府債務残高(マイナスは負債)
Ft+1 : t+1期の財政収支(マイナスは赤字)
i      :国債金利
 
こうすると、t+1期の政府債務残高(Dt+1)は、同じ期の財政収支と、前期(t期)の政府債務残高に支払い利息を加えて金額( Dt(1+i) )の合計として示せる。
Dt+1=Ft+1 + Dt(1+i)
 
これを各期の名目GDPに対する比率で表示すると以下の通りの式となる(英小文字はそれぞれのGDP比率を示す)。 gは名目GDP成長率 
式の変換はご関心があれば各自でやってみて頂きたい。
dt+1=ft+1 + dt(1+i)/(1+g)
 
要するに次期の政府債務がGDP比率で増加し続けるかどうかは、①各年財政収支比率(GDP比)、②国債の金利水準、③名目GDP成長率の3つに依存するというドーマーの定理だ。
 
目下ユーロ圏は各国の財政収支をGDP比で-0.5%にすることを目標にしている(PIIGS諸国にとっては非常に高いハードルだが)ので、これを長期的に実現できたとしようか。
また各国の名目成長率は3%(=実質成長率1%+インフレ率2%)と想定しよう。
 
現在の各国の政府債務残高はGDP比率で、ユーロ圏平均80%台、イタリア120%、スペイン70%、ギリシャ160%だが、シュミレーションは80%でやってみる。
 
その1:金利4%
その2:金利5%
その3:金利6%
 
以下に添付したのが、上の式で計算した政府債務(GDP比率)の2050年までのシュミレーションとなる。 全部右肩上がりの政府債務比率の発散コースとなる。ただし国債金利4%の「その1」は上昇の仕方が比較的緩やかなので、安定コースに近いとみてもよさそう。国債金利が3%なら式が示す通り、毎年の政府債務増加は財政収支分の-0.5%になる。 (ただし過去5年、これだけの不況にもかかわらずイタリアもスペインも10年国債で見ると利回りが4%以下になったことはわずかしかない)
 
つまり財政赤字比率-0.5%という現状比極めて厳しいハードルを仮にクリヤーしても、国債金利が5%以上だったら、政府債務は発散コースが予想されるので、投資家は怖くて国債が買えない→国債金利高止まり→政府債務は発散コースという自己循環的なループに陥っているように見える。
 
各国の国債金利は以下のサイトで見れる。スペイン国債10年物は現在6%程度。
 
この点は重要な気がしてきた。政府債務残高比率が発散するか、安定化するか、を考える場合は、予想される毎年の財政収支比率は要因のひとつに過ぎず、投資家の国債に対する信認が壊れて、国債金利が上昇した場合、そのこと自体が自己実現的に政府債務の発散コースを引き起こすということだ。
 
もっとも日本の政府債務残高(グロス)のGDP比率は200%まで既に膨張しているので、今後の名目GDPが2%で成長し、かつ毎年の財政赤字はGDP比率-3%(現状9%近い)に縮小したとしても、国債金利は3%程度の上昇で、2050年には政府債務残高はGDP435%になり、長期的に持続不能な発散コースだ。大雑把にいうと、この場合、国債金利1%なら大丈夫、3%なら発散コース→財政破たん、2%なら微妙・・・。
 
計算式を見てわかると思うが、インフレ率が上昇して名目成長率が国債金利と同じになるか、あるいは名目成長率が国債金利を上回れば、政府債務の安定化はもっと容易になる。
 
ここからちょっと議論が飛躍するが、21世紀の金融政策の目標として、中央銀行が国債購入額を操作することで、インフレ率(→名目成長率)と国債金利の持続可能なバランスをとるという新しい課題に否応なしに直面するのではなかろうか? 
 
たとえば、国債金利が5%で名目成長率が2%なら、中央銀行は国債を購入し、両者の水準が2%と5%の間でバランスするまで買い続けるような政策に合理性がないだろうか。 ただし、では国債金利が10%で名目成長率が5%(=実質成長率1%+インフレ率4%)の時も同様のことが言えるかというと、ベースになっているインフレ率が高すぎるので、二の足を踏まざるを得ないが・・・
 
間違いなく、中央銀行は「そんな芸当はできない」と嫌がるだろう。しかしユーロ圏より米国や日本では政府債務残高比率がユーロ圏より高いにもかかわらず、国債金利が低位安定して財政破たんが顕現化していないのは、中央銀行の大規模国債購入で上記のバランスが結果的に保たれているからかも・・・という気もしてきた。この点はもう少しよく考えてみる必要ありそうだ。
 
それでも政府債務比率が上昇するにつれ、コントロール不能になるリスクは増加するので、政府債務の抑制は不可欠だ。 
 
竹中正治HP
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今日入ってきたFTの記事

エマージング諸国の中央銀行がユーロを売っているというディーラー情報
売り手はどの国(複数)の中銀か、書かれていないが(それは取引の守秘義務上オフレコだったのだろう)、中国は近年の最大の買手だったはずだから、中国人民銀行が売りに加わっている可能性は高いね。

そうだとすると、どでかい損切りだね(^_^;)
Emerging market central banks sell euros
Central banks in emerging markets have been dumping euros to shore up their own currencies,
contributing to the euro’s drastic slide in recent weeks, according to traders.
 
ユーロの為替相場下落も、これでいよいよsell offのクライマックスに向かうのかもね・・・
 
おっ!この本日のWSJ記事も見逃せない。
Germany Signals Crisis Shift
Germany is sending strong signals that it would eventually be willing to lift its objections to ideas
such as common euro-zone bonds or mutual support for European banks if other European
governments were to agree to transfer further powers to Europe.
 
まあ、まだ時間がかかると思っといた方がよさそうだな。eventuallyだからね・・・・

竹中正治HP
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以下のFTの記事、スペインからの資本逃避が1-3月期だけでスペインのGDPの10%に達する規模になったことを伝えている。
実額では970億ユーロ、約10兆円。日本に当てはめれば50兆円の巨額資本逃避になる。統計データはスペイン中銀の発表した国際収支統計だ。データの信頼度は高い。
 
Spain reveals €100bn capital flight         May 31 2012
Data published by Spain’s central bank showed €97bn had been pulled out in the first quarter –
around a 10th of the country’s GDP – as concerns mounted over Madrid’s ability to contain its
twin economic and financial crises, which have forced government borrowing costs to euro-era
highs.
 
おそらくスペインの投資家が自国の国債を売って、他域内(ドイツ)、あるいは域外に送金するような取引が増えているのだろう。域外に出る分は、ドルやポンド、円などに転換すれば、その分ユーロ売りになる。まあ、私がスペインの金持ちだったらやはり自己資産防衛のために同じことをやるだろう。
 
このままならスペインは既に深刻化している信用逼迫(credit crunch)に拍車をかけることになる。ただしこの動きは今に始まったものではない。すでにドイツの銀行部門には南欧からの逃避資金が莫大に積みあがっている。それをECBがブンデスバンクから預かって、南欧諸国の中央銀行に預ける(融資?)
操作でECBのバランスシートは膨張している。スペイン中銀の側から言うとEuro Systemからの借入が、資本流出分をカバーする分、増加している。
 
民間金融機関相互の域内の信用が縮小しているのを、ECBと中央銀行の貸借がかろうじてカバーしている形になっている。まあ、心臓(民間金融機関部門)が機能しないので、人工心臓(ECBと中銀)で血液を流しているようなものだ。
 
いつまでもつのか?ユーロ圏の最悪の事態はまだこの先に控えていると考えた方がよさそう・・・・・
為替相場としては1ユーロが90円を割れて80円台に入ったら、おそるおそる買ってみたい気もするが。
 
竹中正治HP
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