たけなかまさはるブログ

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2013年01月

日本のREIT市場が2006年から07年にかけてバブル的な高騰をした後、2007年夏のサブプライム危機を経て、2008年9月のリーマンショック後に暴落したことは、みなさんご存じだろう。(以下、東証REIT指数、過去5年)  
 
2006年~07年夏までは、内外の不動産ファンドからヘッジファンドまで都心の収益不動産の買いに殺到した。当時私はREITは「割り高過ぎ」と判断して全く保有していなかったが、このミニバブルのおかげで、マンションを2戸(ひとつは母の名義)高値圏で売り抜けることができた(買い手はいずれも大手デベロッパー・グループの不動産仲介業者で、在庫仕入れのために自己資金で買っていた)。
 
さて、昨年暮れからの東証REIT指数の上げ幅は既に20%に達している。それでも、2008年~09年に暴落したことはついこの前のことだから、投資家の記憶にも焼きついていて、当分はバブル的な高騰にはなるまい・・・と思っていた。
 
しかし、そうでもないかもしれない。のど元過ぎれば熱さを忘れるのたとえで、比較的近い将来にまたバブル的な高騰をやってくれるかもしれないという気がしてきた。
 
その理由は、今週号の週刊エコノミスト(2月5日号)の記事「上昇を続けるアジアREIT、中国含む投資マネー流入が押し上げ」(増宮守、ニッセイ基礎研究所)を読んだからだ。
 
引用:「アジアでは現在、シンガポールと香港のほか、マレーシア、タイ、台湾、韓国、フィリピン、パキスタンで上場REIT市場が整備されている。・・・銘柄数は年々増加し、現在では計約100銘柄、時価総額では820億ドルと日本のJ-REITの510億ドルを上回る規模まで成長している。」
 
「2012年にはシンガポールのREIT市場の全体動向を示すSTREIT指数が米ドルベースで45%上昇した・・・・」
 
「加えて重要と見られる要素は、中国本土の富裕層の動向である。(中国本土では政府の規制強化で)国内不動産への投資がし難くなるなかで、シンガポールや香港の不動産に向けて中国本土富裕層の資金逃避が加速したとも考えられる」 
****
 
増宮氏のレポートは、以下のニッセイ基礎研究所のサイトでも読める。
 
引用:「2012 年、価格推移の強さが目立った投資対象のひとつにアジアREIT(不動産投資信託)を挙げることができる。アジアの株式市場は総じて好調であったが、代表的なアジアのREIT 指数は各国の株価指数をさらにアウトパフォームした。

価格上昇の背景には、グローバルに広がるカネ余りとリスク意識の高まりがあり、アジアREITは
比較的安全な資産として、リスク回避資金の受け皿になったと考えられる。また、グローバルREIT
ファンドのポートフォリオウェイト引き上げによる価格上昇圧力を受けたほか、中国でもカネ余りが
広がるなか、一部の中国資金がアジアREIT に向かったとも考えられる。
アジア REIT の国別内訳では、シンガポールと香港が約8割を占める。」
***
 
アジアのREIT市場は急成長したと言っても、たかが数兆円に過ぎない。ホットマネーが流れ込めば、沸騰してしまう。投資先を広げるために日本のREIT市場に流れ込むのも時間の問題・・・いや、既に流れ込んでいるのかもしれない。
 
ありがたいことだ。バブルになるためには、割高にもかかわらず、買い上げてくれる投資家層が必要だ。今回、それをチャイナマネーを中心にアジアの投資家がやってくれるかもしれない。
以前紹介した通り、REIT市場全体の割安、割高はP/NAV(Price/Net Asset Value)で判断できる(以下サイト参照)。
 
既にJ-REITは割安を解消し、1月時点でP/NAVは1.0を超えて来た。どうぞチャイナマネーで存分にバブッてください。高値圏で売り抜かせて頂きま~す(^^)v
 
補足:「今から買っても間に合いますか?」なんて愚問はしないでくださいね。
 
追記(2月1日):REITの割安割高を判断する指標としてのP/NAV指数は、株価でいうとPBRに似ているが、株価のPBRがbook value(簿価)であるのに対して時価評価を使っている点が異なる。しかし計算が厄介だ。
 
紹介したT-Maxのサイトは全REIT銘柄の個別のP/NAVを算出して、加重平均しているのだと思う。とても作業に手間がかかるので、お金でもくれなきゃ自分ではやる気になれない。
もっと簡便な割高・割安の判断法はないか?
 
そこで、住宅価格でやった手口(PRR: Price Rent Ratio)を使ってみた。日本のREITの大半は都心部の商業ビルだから(住宅やその他もあるが)、東証REIT指数(価格指数)を商業ビルの賃料指数で割れば、PRRと同様の指標になる。 賃料指数は、三幸リアルエステートの東京都心3区の商業ビルの賃料指数を使った。
 
その結果は以下の図の通り、2003年以来の割安、割高局面が概ね判断できるイメージになった。2012年の第4四半期の賃料指数がまだ出ていないので、第3四半期と同じとしてある。
 
これを見ると、既に1月末時点で東証REIT指数のPRRは2003年以来の平均値を越えており、割安圏から割高圏に移行した。あとはどこまで平均値から上に乖離するかだ。
 
こりゃあ楽しみな展開になって来た。このPRRとP/NAVを見ながら、高値圏を分割して売り抜けることにしよう! チャイナ・マネーさん、高値でのお買い上げ、よろしくお願い致しま~す。(^o^)丿
イメージ 1
 
 
 
 
 
 
 
竹中正治HP
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さて、前回書き残した国債のリスクプレミアムをどのように測るかについて手短にコメントしておこう。
通常、国債が無リスク資産と判断される場合には、他のリスク性資産(たとえば社債)のリスクプレミアムは同じ期間の国債利回りと比較して、その差がリスクプレミアムと言われる。
 
ユーロ圏の金融ソブリン危機では、ドイツ国債とPIIGS諸国の国債利回りが比較されて、イタリア債のリスクプレミアムが**%とか言われた。
 
では自国通貨建て国債自体にリスクプレミアムが生じているかもしれないことは、どうやって判断できるか?前回はソブリンCDS市場を紹介したが、述べたとおりソブリンCDSと国債市場には裁定取引が機能していないようなので、ソブリンCDS市場のプレミアム自体を国債市場におけるリスクプレミアムと呼ぶのは無理がある。
 
実はこの点は前回紹介した2012年度の経済白書が1節割いて解説してくれている。
「3-1国債利回りとリスクプレミアム」
 
引用:「国債利回りは、①短期金利の将来予測部分と②リスクプレミアム部分から構成される。
前者において、政策金利を短期金利とすると、将来の政策金利の期待値は、先行きの経済環境(将来のインフレ率や需給ギャップ等)についての期待により決定される。
他方、後者のリスクプレミアムは、デフォルトリスクを映じた財政リスク(信用リスク)プレミアムや、取引を行いたいタイミングで実際に執行することが可能かなどの流動性リスクプレミアム等により構成される。
将来の政策金利の期待値を示す金融市場の取引レートとしては、OIS(Overnight Index
Swap)レートが挙げられる。OISレートは、将来の金利(O/Nレート)の期間平均値であることから、
財政リスクは含まれていない」
 
OISについてご不祥の方は、以下のサイトの解説をご参照頂きたい。
 
補足すると金利の期間による違い(期間構造)は次のように決まる。
期間10年の固定金利から生じる金利コスト=短期金利で期間10年間借り換えを繰り返した場合の予想金利コスト 
 
双方の金利のキャッシュフローを現在価値に引きなおして等価になるように変動金利と固定金利のスワップ取引が成り立つ。
 
金融機関相互間のオーバーナイトのコール取引は、通常の場合、信用リスクは限りなくゼロに近いので、オーバーナイトの変動金利のキャッシュフローには信用リスクが含まれてないと考えて良いだろう。
従って、このOISレート<国債利回りの部分が、当該国債の信用リスク+流動性コスト=リスクプレミアムと判断できる。
 
上記白書は、2012年1月時点の市場として、期間10年物では日本国債利回りはOISレートを0.4%程度上回っており、それがリスクプレミアムと判断できることを示している。ちなみに同時期の米国債ではこの幅は0.2%程度、フランス国債では1%余りとなっている。
 
以上の通り、OISレートとの乖離幅という点では、日本国債でも事実上リスクプレミアムは発生していたことになる。
 
 
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pascalさんのコメント
「国債がその償還に関して所有者に約束していることは満期が到来したときに日銀券と交換するということだけです。この「約束」が(日銀のマネタイゼーションによってだとしても)守られるとしてもリスクプレミアムがつくのでしょうか?・・・・国でなくても日銀が国債を日銀券でどんどん買うならばプレミアムはつかないのではないでしょうか(国債が日銀券と等価になることが保証される訳ですから)?日銀が最後には買ってくれるならば、金利のつかない日銀券で持ってるいるよりも国債で持っているほうが得になります。」
 
実は私も以前はそう考えていました。自国通貨建ての国債は最後には中央銀行が償還される国債を買ってマネー(不兌換紙幣)を供給すれば良いのだから、それがインフレ(含むハイパーインフレ)になることはあっても、デフォルトにはならない。従って国債利回りは期待インフレに連動して上昇する(価格は下落する)が、リスクプレミアム(以下RP)は生じない・・・とね。
 
ユーロ圏のPIIGS諸国の国債にドイツ国債との比較でRPが生じているのは主権国家としての中銀を放棄したからだ。また途上国に見られる外貨建ての国債は当然中銀は外貨マネーを発行することはできないので、デフォルトリスクは生じるのでRPは生じ得る。
 
ところが一方でソブリンCDS市場では、日本国債にも米国債にもプレミアム(保証料)が生じている事実をどう考えたらよいのだろうか?
ソブリンCDSについてご不祥の方は以下サイト参照。
 
ソブリンCDSのプレミアムについては以下サイト参照。
 
上記のサイトでわかるように5年物日本国債に80BPのプレミアムがついている(1月24日現在)。
CDSはデフォルトが生じなければ、売り手(リスクの引き受け手)から損失補償の支払いを買手は受けられない。単にインフレで国債価格が下落したというのは保証の対象外だ。
 
だからソブリンCDSの買手はデフォルトリスクが実現しない限り、プレミアムを払い損になるので、デフォルトリスクを想定して買っているわけだ。この市場では自国通貨建て国債のリスクプレミアム自体が存在し、売買されていることになる。
 
この点で今年度の内閣府の経済白書(年次経済財政報告)は第3章の財政問題をとりあげた章で次のように述べている。
 
引用:「我が国のソブリンCDSスプレッド(プレミアムのこと、竹中)は、リーマンショック以降、我が国の財政状況の悪さが意識されたために、拡大したと考えられる。2011年末では、先進国の中では、GIIPS諸国とフランスに次ぐ水準となっている。・・・・我が国では、財政リスクが意識されているが、国債利回りは低位で安定している。以下では、その背景を・・・分析する」
 
白書はこの後、日本国債利回りの低位安定の背景として「国内資金の制度的封じ込め」が事実上生じているためと指摘している。
 
その判断の可否はともかくとして、ソブリンCDSと国債市場では全く異なった価格が成り立ってしまっていることを、どう理解したらよいのか? 
 
日本の金融機関や機関投資家は、平気で莫大な日本国債を保有しているのだから、ソブリンCDS市場で売り手になれば、国債の利息と同時にプレミアムも手にはいるじゃないか。CDS市場は急拡大してきたとはいえ、国債の発行残高の1%にも満たない規模だから、日本勢がCDSの売り手に回れば、プレミアムはあっと言う間に縮小するだろう。どうしてそうならないのか?
 
白書はこの点は明示的に語ってくれていないが、理解するカギは「counter party risk」だ。
国債がデフォルトするような時は、当然その主たる保有者であるその国の金融機関や機関投資家も破綻する可能性が極めて高くなる。
 
従って、ソブリンCDSの買手は日本の金融機関や機関投資家にプレミアムを払ってCDSを買っても、デフォルトが生じた時には、売り手(日本勢)に支払い能力ない・・・という状態になっていることが想定される。したがって、日本の金融機関や機関投資家は、買手の立場からすると、カウンター・パーティー・リスクが高すぎて売り手になり得ない。
 
それではヘッジファンドなどが双方の市場を裁定することでプレミアムが縮小することはないのか?ソブリンCDSを売って(プレミアムを取得)、そのヘッジのために国債を空売りしたら裁定利益が得られないか?
 
ところが、裁定も実に困難だ。現物、あるいは先物の国債価格は現状ではデフォルトリスクにほとんど感応度のない動きをしている。一方、ソブリンCDSはその反対で国債のデフォルトリスクに感応して変動している。裁定取引が成り立つための両者の間の相関関係が存在していない。
 
実際に、もし2008年以降にこの裁定取引をした場合は、国債の価格上昇(利回り低下)とソブリンCDSのプレミアム上昇で、両方のポジションから損失が生じただろう。
 
従って、実に興味深いことに、国債市場とそれをリファーしたソブリンCDS市場では、同じ金融資産を対象にしながら、裁定も成り立たないまま、分断された市場として異なった価格が形成されているという、ちょっと珍しい、パラドキシカルな状態になっているわけだ。
 
では最後の問題、どっちの市場が正しいのか? 規模から言うと国債市場が圧倒的だ。参加者のすそ野も遥かに大きい。だからソブリンCDS市場ではヘッジファンドなど投機家主体の歪んだ価格形成が生じていると理解する向きもあるようだ。
 
しかし、ヘッジファンドなど投機家だからこそ、みすみす損をするような非合理的な行動は回避しようとするだろう。 多数派の市場が合理的なんだということなら、そもそもバブルも起こらない。
 
というわけで、どちらの市場の価格が合理的なのかは、一概に判断できないように思う。強いていうと立場の違いということ・・・・日本の金融機関としては国債がデフォルトするような大津波が起これば、自分も逃げ切れずに破綻するのだから、国債のデフォルトリスクを気にしても無意味ということになろうか。
 
将来、実際に財政赤字、政府債務の持続性に不安が生じ、日本でも国債からのキャピタルフライトが生じるような事態になり、日本の金融機関や投資家がヘッジのためにソブリンCDSの買手になるような状況になったら、ソブリンCDSのプレミアムと日本国債の価格に連動性、相関性が生じることも起こり得るように思う。つまり上記の白書が言う「国内資金の(事実上の)封じ込め」が壊れるときだ。
 
というわけで、現状では可能性はかなり低いと思うが、長期的なスパンで考えると日本国債市場でリスクプレミアムが生じるケースというのも、起こり得るシナリオのひとつとして考えておいた方が良いかなと思うに至った次第。
 
国債のリスクプレミアムの計測方法について、もうひとつ説明があるが、今はここまでということで。
以下、参考に日銀のソブリンCDSに関する論文をご紹介しておこう。
 
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2012/wp12j09.htm/ (←ちっと難しいわりに大事な問題には答えてくれていないけどね)
 
ああ、私にとっても勉強になりましたね(^^)v
 
竹中正治HP
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一国の政策の問題なのだから、どちらが勝った負けたの次元では困るんだが、
今回の日銀の政策発表は、「日銀が名を捨てて実を取った」というのが実情だろう。

安倍内閣が得たものは「2%の物価上昇率目標を盛り込んだ政府・日銀の共同声明」という看板だけだ。
看板を掲げても、その実現のためにするアクションは既定路線の延長でしかない。
 
つまり一段と大胆な量的金融緩和期待は「空振り」になったという記者の判断に私も賛成。
その結果、円安も株高もトレンド休止で、当面もみ合いに入る気がする。
 
次の焦点は4月に誰が白川総裁の後任に選ばれるかだろう。
あとは実体経済の回復基調がfollowすることに期待するしかなさそう。
 
ロイター記事「白川日銀の粘り勝ち、アベノミクスに軌道修正の気配」1月24日
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYE90L06R20130122
 
以上

ゼロ金利下の量的金融緩和でデフレをマイルド・インフレに転換できるか?この議論、次のように整理すると分かりやすいかもしれない。
 
単純な貨幣数量説の公式: PQ=MV
P:価格、Q:商品の量、M:マネーの量、V:マネーの流通速度(一定期間の回転数)
 
この単純な貨幣数量説は、マネーの役割が①価格表示機能と②商品売買の仲介機能(支払い機能)に限定される場合のみ成り立つ。 その場合、経済主体は受け取ったマネーは即使用して支出に使うわけだから、Vが一定なら、P(価格)はM(マネー量)に比例する。
 
ところがマネーには「価値の退蔵機能」という第3の機能がある。経済主体が受け取ったマネーを退蔵すれば、マネー供給量を増やしても、退蔵されるばかりで支出されないので価格は下がる。デフレというのはこういう状況だ。
 
だから皆がマネーを退蔵したがれば、デフレは自己実現的に起こる。
 
こういう状況下で、中央銀行が対民間で国債を買って、マネーを供給することで何が変わるだろうか?
ここでFRBバーナンキ議長がQE2を始める前の2010年8月に講演で語ったポートフォリオ・バランス効果が持ち出される。
 
今、民間が100兆円の現金、100兆円の株式、100兆円の国債、100兆円の不動産を持っているとしよう。中銀が国債を100兆円買い上げてしまえば、民間のポートフォリオは200兆円の現金、100兆円の株式、100兆円の不動産になる。
 
株と不動産に対して現金の比率が上がったので、株と不動産の価格は上がり、現金の価値は下がる=資産インフレになる。
 
だから「量的金融緩和は財やサービスのインフレは起こすことができないで、資産価格の上昇しかもたらさない」と主張する方々は、ここまでは正しい。
 
しかしこの先がある。
資産価格の上昇が財やサービスへのインフレ効果をもたらす経路は複数ある。
①→正の資産効果による消費増
②→不動産などの担保価値の増加による信用供与増
 
さらに増加したマネーが海外の資産購入に向けられた場合は
③海外資産の購入→自国通貨売り・外貨買い→自国通貨安→輸出増加
という経路も働く。
 
もちろん、資産価格の上昇が財やサービス価格の上昇にまで波及するにはある程度の時間がかかるだろう。2000年代の日本は、株は2003年から不動産は2006年前後から上がり始め、円安も2005年以降進み、CPIがプラスになったのは2007年から08年だった。
 
ところが不運にもその時期がリーマンショックによる世界不況と重なって、信用も需要も縮小に転じてしまったので、インフレ期待が定着しなかったと理解できそうだ。
 
竹中正治HP
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安倍内閣のもとで再び経済政策へのアドヴァイザリー役となった浜田先生、デフレは金融政策の問題だという主張で、デフレ・低成長に金融政策は無力と説く野口教授と真っ向対立議論となっている。
 
実は両氏の討議は小泉政権の時にも行われており、その時は浜田先生が野口教授に向かって、「こんなこともわからないなんて、大学院生に戻って経済学を勉強し直してきなさい!」と一喝したことがあるとか。
 
今回の両氏の激突は、以下1月20日の日曜討論ご参照。
シェイブテイル日記さんを引用させて頂きました(以下)。
 
引用:
野口金融政策については、過去のデータを見る限り効果がなかったということがはっきり分かります。それから財政拡大については、金利の上昇といった問題が懸念されます。つまりこういう政策では日本の問題は解決できないという点は重要です。日経済の構造を変えていくことが必要です。そこで重要なのが3番目の成長戦略で、国民はこれでどのような政策が出てくるかに注目していると思います。」
 
浜田 「景気を考える時に一番重要なのは天井(潜在成長率)です。天井を伸ばすのには金融政策ができることは限られていて、正しい意味での成長戦略は必要です。ただし、現在の日本が立ち遅れていいるのはそこ(潜在成長率の伸び)ではなく、せっかくの(生産)資源や人的資源を十分に利用できず、成長経路に乗っていない。
それを妨げていたのが金融政策(の誤り)で、なぜかといえばその兆候が円高とかデフレであるということです。私は先程野口先生がおっしゃったことには真っ向から反対です。」
(浜田先生終始にこやか、野口氏憮然)「こんなに論より証拠で、株が上がり為替も影響を受けるのに、
金融政策が効かないということはない。」
 
野口「私も今回の公共投資は中身は評価できると思っています。問題は財源です。今の国債は非常に不安定になってきます。これは現在のユーロ危機との関係もあり、もし金利が上がると、国債を大量に持っている金融機関では膨大な損失が発生して経済が大混乱するという問題があると。
今のところは日銀国債を買っていますので、大丈夫だろうと考えている人が今のところは多いのですが、これも行き詰まっていく可能性があるんですね。銀行が国債を売らないということになっていく可能性がある。だから財源の問題は決して簡単ではないのです。」
 
浜田「今の与党内閣でちょっと心配なのは、大型の補正予算を出すことだけに集中する人がいるということで、金融は効かないから、財政でと。それは現在の経済学の立場から言えば全く反対で、変動(相場)制の社会になったら、(財政政策ではなく)金融政策が効くんだと。
それを言ったマンデルという人は、金融政策をやって、インフレ期待が生じ、金利が高くなるということは起きるが、それはインフレ期待よりも少ない、だから必ず経済は利益を受けるということを言っております(この点については常にそうなるわけじゃないだろう。想定条件が肝心。竹中注)
 
野口経済成長も促進されないし、雇用も増えない。なぜかといえば社会全体のお金の量が増えなかったんです。日銀金融緩和をして、当座預金は二倍位に増えたんですが、マネーストックは10%位しか増えなかった。なぜそうなるかといえば、貸出需要がないからなんです。これはデータで非常にはっきり分かっています。」

浜田「データとおっしゃいますが、科学的に見ると、債券を買い、株式を買い、といういわゆる包括緩和ならもっと効く。それから本田教授らが示しているように、量的緩和でゼロ金利で野口先生のおっしゃることは多少起こったが、やはり日本経済にはプラスの影響がある、というのが実証的に証明されているので、『過去のデータを見ると(効果が)全くない』というのは全くのウソだと思います。」

島田「ただ、貸出が余り増えていないということはありますね。」

浜田「私が銀行に借りに行っても貸してくれないでしょう。それは担保が足りないからで、株式、そして土地の資産価値が今後上がってくれば、担保が増えて貸出市場にも極めて強く効く、というのが今の連銀議長でまた立派な経済学者でもあるバーナンキ先生が言っていることです。野口先生がおっしゃるのは今の経済学から見ると時代遅れだということですね。」(野口氏、苦笑)
****
 
浜田先生単独インタビューは以下のダイヤモンドオンラインにて
 
浜田先生の日銀に対する不満と苛立ちは、このインタビュー記事の次の言葉に代表されている。
「白川(方明日銀総裁)緩和がうまく行かないのは、「もうそんなことをやりたくない」という意思を言外に示し、自ら「金融緩和策には効果がない」と吹聴しているためです。本気さが見えない中央銀行の政策を、誰が信用するでしょうか。」
 
日銀が「しぶしぶ」に見える理由は、私の推測では、日銀はインフレになった時の長期国債の暴落→金融危機というシナリオを恐れているんだと思う。日銀マンは決して口にしないことだ。予想の自己実現を恐れているのだろう。2ポイント程度の10年物国債の利回り上昇でも、価格は2割近く下落するからね。
 
それが起こらないという保証があれば、もっと過激な量的緩和もできるだろうが、その保証は経済学をどうひねくっても出てこない。「そうならないように操作、誘導してみせる」と中銀が決意するしかない。バーナンキはそれをやっているように見える。
 
この点、浜田先生は「期待インフレ率の上昇ほど国債利回りは上がらない(から大丈夫)」と言っているが、国債の信認が壊れた場合には、期待インフレ率以上に国債利回りは上昇することはPIIGS諸国が実証してくれている。
 
従って大胆な金融の量的緩和によるデフレ期待の反転と、長期的な財政再建への期待の繋ぎ止めという2つの異なる期待を同時に安倍政権は満たす必要がある。
 
私の本件テーマに関する見解については、2008年に書いた「金融政策のデッド・ゾーン、デフレとの戦い」もご参照頂きたい(以下)。
 
私の結論を言うと、ゼロ金利下でも量的金融緩和でデフレをマイルドインフレに転換できるかどうかは、経済主体のデフレ期待をインフレ期待に転換できるかにかかっている問題だと思う。つまり金融政策は「期待」を操作できるか?ということになる。 操作できる可能性はあり、現在の円安はその結果という面もある。しかし持続的に操作ができるかどうかは、難しい課題で操作不能になるリスクと紙一重かもしれない。
 
最近の円安、株安については以下の1月のロイターへの寄稿論考「1~2%インフレならば、株価はどこまで回復するか」をご参照。
 
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「1~2%インフレなら、株価はどこまで回復するか」

ロイター社への寄稿論考です。本日夕刻に掲載されました。
ご覧になって、よろしければロイター社サイトで「f おすすめ」をクリックお願い致します。
<(_ _)>  以下サイトです。
外為相場の予想なら、銀行のディーラー時代から何度も書いていますが、株式相場の中期予想を書いて公表したのは私としては初です。ちゃんと、なぜそうなるかについてデータとロジックも説明しています。鉛筆舐めて書いているわけじゃないよ(^^)v  当たるかな~?

引用:「結論から言うと、今年の世界経済が再び景気後退に逆戻りするようなことがない限り、日本株の上昇余地は大きい。目先1―2年では東証株価指数(TOPIX)で1100(1月11日終値898)、日経平均で1万3000円台(1月11日終値1万0801円)、中期的にはその水準からさらに10―20%程度の上昇余地があるだろう。」
 
「『金融・投資理論のとおりにはならないのが株式相場だ』と考えている方も多いだろうが、株価の短期変動の予想は困難でも、株式市場全体の趨勢的な動向はファンダメンタルな価値との乖離(かいり)と回帰を繰り返す。実際にそれを示そう。」
 
「消費者物価指数の1ポイントアップに加えて、資本利益率が11年度の実績3.8%から1ポイント上がって4.8%になると、株価理論値は41.9%上昇し、TOPIXでは1167、日経平均では1万3403円に相当する。」

「安倍政権は具体的な政策としてはまだ何もしていない。だから現下の円安・株高の動きを「期待先行に過ぎないからいずれ剥げ落ちる」と見ることも不可能ではない。」

「しかし、必要だったのは「期待の転換」だったのだ。さんざん議論されてきた量的金融緩和の効果も、つきつめれば、それが市場参加者のデフレ期待をマイルドなインフレ期待に転換し、デフレ適応型の行動からインフレ適応型の行動に誘導できるかどうかにかかっている。」
 
追記:1月13日
私の試算の前提について、さらに考えるべき点がある。それは文中の以下の記述の通り、投資家の期待資本利益率(その趨勢的な水準)が長期にわたって安定していると想定していることだ。
「投資家が株式投資に求めるリターン(期待資本利益率)が長期にわたり安定しているとすれば、マイルドインフレへの転換で将来にわたる名目純利益の成長率が押し上げられた場合、株価は上昇する」
 
反対に、もし投資家の期待資本利益率が期待インフレと完全に連動するなら、インフレが高進しても、デフレになっても、株価はほとんどそのことには影響を受けないことになる(負債コスト、つまり金利もインフレ期待に連動すると想定)。 
 
実際にはインフレ率2%のもとでも、10%の下でも、投資家の期待インフレ率が不変(上記試算では10%の想定)と考えるのはやはりおかしいだろう。
 
現実の経験則では、株価は期待インフレの変動の影響を受けていると考えられる(そのこと自体の検証方法は改めて議論するとしよう)。とすると、投資家のリスク資産に対する期待資本利益率は、ある程度の安定性、粘着性があって、期待インフレ率には不完全にしか連動していないと考え良いのではなかろうか。
 
この点は重要な点だと思うので、後日再考しよう。
 
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本日の日経新聞web版「年金、13年から減額、知っていますか」
 
引用:「2013年の10月から2015年の4月にかけて、年金の支給額が徐々に減るという法律が成立しているのです。厚生年金の標準世帯で試算すると、2015年の4月は2012年の年金水準と比較し、毎月5900円の減額になります。
「今回の年金の減額は2012(平成24)年11月16日、民主党の野田政権(当時)が衆議院を解散する直前に、ギリギリで成立させた国民年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律』によって決定されたものです。」
 
しかし、この減額はこれから21世紀中葉にかけて不可避となる公的年金大幅減の序の口の序の口にすぎない。
たまたま同日の日経新聞朝刊「経済教室」で大和総研の武藤理事長が、次のような試算を示している。
 
引用:「大和総研が基礎的財政収支の均衡維持などを前提に試算したところ、高齢化比率が40%に達する2050年代に、高齢者向け社会保障の給付水準を現在と同じ水準に維持すると仮定すると、国民負担率(国民所得に占める税金と社会保障費の支払い負担の比率、注釈:竹中)は現在の40%から70%近くに上昇する。民間の活力を生かすには、これほどの高負担は適当ではないだろう(はっきり言って不可能、注釈:竹中)。
 
社会保障給付水準を現在より50%以上削減すれば、将来の国民負担率を40%台に抑制できるが、そこまで削減するのは高齢者福祉のあり方として容認しがたいだろう。30%の削減ならば、50年代の国民負担率は50%台半ばと試算される。(これは今の西欧諸国なみ、注釈:竹中)高齢者が受ける社会保障サービスの水準と勤労者の負担の割合のバランスをいかに均衡させるか、国民の納得を得る改革が必要である。」
 
同種の試算は他でもいくつも出ているが、みなほぼ同じ結果だ。現在の公的年金や医療制度を含む社会保障制度、つまり現役世代が引退世代の年金や医療費を負担する世代間賦課方式では、少子高齢化がますます進む中で制度の維持は不可能。
 
これはエコノミストや経済学者にとっては常識であり、年金や医療、財政問題を扱ったまともな書籍にはみな書いてあることだが、政治家はなかなかこの現実に正面から対処しようとしない。
 
民主党野田内閣も、「消費税を上げたら大丈夫」というような幻想だけばらまいたように思える。
 
間違いなく言えることは、これから起こる公的年金の減額で、引退して年金しかない高齢者と現役時代に資産形成ができた(従って資産所得もある)高齢者、あるいは60歳過ぎても所得能力のある高齢者の格差、つまり貧乏じいさんと金持ちじいさんの格差はますます拡大するだろう。
 
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本日1月3日の日経新聞朝刊「経営者が占う2013年」、大企業経営者20人の株価(日経平均)の予想を見て苦笑した。
日経平均の安値の予想がほとんど9000円前後で1-3月に集中しているからだ。

実際はご存じの通り昨年12月の最終営業日に10,395円をつけている。
予想の高値は11,000円~12,000円が多く、ほとんど年後半だ。

私も銀行の調査部にいたから良くわかるが、恒例のこの種のアンケートは11月の末から12月上旬頃に新聞社から依頼が届く。昨年のその頃はまだ日経平均は9000円台で、景気見通しは2013年春まで悪化予想が支配的だったから、こういう結果になったのだろう。

もちろん大企業の社長さん方が直接アンケートに答えているということは、ほとんどない。
たいてい調査室や企画部の経済調査担当者が代筆で記載して、「こんな感じでいいでしょうか」と一目お目通し頂く程度だ。会社によっては、それすら省略されるかもしれない。

部下のサラリーマン調査役が後から「なんでこんな予想出したの?」と言われるリスクをミニマイズする姿勢で代筆しているわけだから、世間の雰囲気、コンセンサスから乖離したような予想は出てこない。

そもそも年の後半に景気回復が強まって株価が上がるという予想が支配的なら、みな上がる前に買おうとするから、株価は年後半ではなく、その前に上がってしまうものだ。
「予想と相場の関係」とはそういうものだ。
 
 

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12月のロイター社コラムに寄稿した「債券バブルへGo!」を読まれて私が米国と日本の先行きに警戒的、あるいは悲観的な見方をしていると勘違いされている方もいるようだ。しかしそれは勘違いだ。
 
私は債券にシフト、あるいは集中しているポートフォリオを保有している方への警鐘として書いているのであって、日米経済の先行きには慎重ながら楽観的であり、債券、株式、不動産などをある程度バランス良く保有している投資家にとっては、デフレ期待からマイルドなインフレ期待に転換すれば、投資リターンの上昇が期待できると考えている。
 
2012年に債券比率を上げ、株式比率を下げてしまった投資家としては、生保業界をこのブログで指摘した。また元々国債保有に集中している投資家は郵貯銀行だ。こうした投資家はマイルドインフレへの転換が起これば、大きな評価損を被るだろう。
 
日銀でさえ、長期国債の保有を増やすのに躊躇しており、短期・中期債券、対銀行融資、ETF、REITの購入をしているのは、本当にマイルドインフレになった時の長期債券の価格下落による損失を恐れているからだ。ただし彼らはそれを口にしない。中銀の立場上、それを口にした場合の「自己実現」を恐れているのかもしれない。
 
ただし生保の資金ソースは長期なので文字通り「長期にわたる期待利益の損失」を結果する。一方、郵貯銀行は実現損となる可能性が高い。なぜなら金利が上がれば現在はゼロに近い定額郵貯は引き出され、もっと利回りの高い金融資産や他銀行の定期預金などにシフトする。
 
郵貯銀行が現金引き出しに応じるためには、国債を売るしかないが、その相場は下落しているのだから損が実現する。 唯一それを回避する方策は、定額預金の金利を引き上げることだが、それは既に低利回りの長期国債に固定されている運用利回りとの逆ザヤをもたらして、長期にわたる損失発生が避けられない。
 
デフレ期待がマイルドインフレに転換することでどの程度の株価上昇が期待できるか、簡単な想定で計算してみた。
 
想定:
投資家の期待する趨勢的な資本利益率(ROE)=割引率=10%
インフレ(CPI)率の変化=ROAの変化
ROEの変化=ROAの変化(5%→6%)×2.8(日本企業の平均自己資本比率35%をベース)
企業の平均余命:30年
株価のファンダメンタルな価値は、ファイナンス理論の語る原理に従って将来30年間の純利益の現在価値の合計で求める。
 
以上を 前提に計算すると、
インフレ(CPI)率1ポイントの変化に対する株価の変化は38.5%となる。
日経平均の底値が8500円前後だから、38.5%上昇となると11,772円となる。
 
極めてあらい推測だが、もっともらしい結果がでたな(^_^;)
 
ただしインフレ率が上がると当然企業の負債コストもあがることを勘案していない。
仮にインフレ率の上昇と同じだけ企業の借入れコストも上がるとすると
ROEの変化=ROAの変化になる。
その場合の株価変化はインフレ率1ポイントアップで+11.8%に過ぎない。
 
CPIが前年比+1%になっても日銀が金融緩和を続けて借入れコストが変わらないとすると
上記の結果の最初の結果になる。
 
もちろんリスク要因はいろいろある。たとえば本日の日経新聞ではストラテジスト4氏がみな日本株強気の見通しを述べている。経験的な直感でいうと、こういう時は、予想はでだし当たるのだが、後で何か予想されていなかった波乱が生じる可能性も高いんだが・・・・
 
追記:上記の試算はやはり粗すぎると言うか、論理的におかしなところがあるので
やはり考え直しが必要のようです。いずれ再論します。1月3日
 
追記:試算方法を含めて再検討しました。
結果は1月7日の週後半にロイター社のサイト(コラムと外為フォーラム)掲載予定の論考で示します。(1月6日)
 
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